このページの要点
- 原画の売買は物の売買で、著作権の譲渡を含まない(著作権法61条1項)。所有権の移る時、著作権は作者に残ること、買い手ができる利用を書く。
- 引渡しの時以後の滅失・損傷は、買い手の負担になり得る(民法567条1項)。引渡しの時、梱包、保険、到着後の確認の期限を決める。
- 買い手が消費者か事業者かで契約書を二本に分ける。返金不可・全部免責は、消費者向けでは無効になり得る(消費者契約法8条、9条)。ネット販売は特商法11条の表示が必要。
- 版画は、刷り部数の上限、シリアル番号、管理表を決め、販売を任せるときは、複製・譲渡・展示などの許諾の範囲を書く(著作権法21条、26条の2、63条2項)。
絵画や版画の原画を売る、注文を受けて描く、版画を刷って売る。こうした仕事は、作品という「物」と、作品に宿る「著作権」が別々に動く点に特徴があります。原画を買った人は、原画という物の持ち主になりますが、それだけで作品を自由に複製したり、商品にしたりできるわけではありません。逆に、作者は、原画を手放しても著作権を持ち続けます。この二つを混同したまま売ると、売った後に「飾ってよいのか」「写真を撮ってネットに載せてよいのか」「グッズにしてよいのか」で争いになります。結論として、契約書に入れておきたいのは次の六つです。
- 原画の所有権がいつ移るか(代金の全額の支払いと引渡しの両方がそろった時、など)と、著作権は作者に残ることを書く。
- 引渡しの前後で、破損の危険を誰が負うかを書く。配送の方法、梱包、到着後の確認の期限も決める。
- 買い手が消費者か事業者かで、契約書を二本に分ける。全額前払い、返金不可、免責は、消費者向けでは無効になり得る。
- 版画では、刷り部数(エディション)の上限を決め、管理表で記録する。販売を他の会社に任せるときは、複製・譲渡・展示などの許諾の範囲を書く。
- 販売用の画像の掲載、展示、図録への掲載について、作者の権利と、原作品の所有者の権利を整理して書く。
- 作品について指導を受ける、または教える場面では、作品と素材の権利が誰に残るかを書く。
ロゴ用の手描きの原画を渡す場合の基本はロゴ制作の契約で、イラストの依頼規約はイラストの依頼規約と契約書で扱っています。このページは、アート作品の売買と、版画の制作・販売に絞って説明します。
作品の所有権と著作権は、別々に動く
絵画や版画は、美術の著作物の代表例です(著作権法10条1項4号)。紙やキャンバスに描かれた原画という物には所有権があり、そこに表された絵という表現には著作権があります。著作権は、作者が持つのが原則で、全部または一部を譲渡することもできますが(同法61条1項)、譲渡の契約をしない限り、作者に残ります。原画を売るという契約は、物の売買であって、著作権の譲渡を含みません。
買い手が原画の所有者として何ができるかは、著作権法がある程度定めています。まず、美術の著作物の原作品の所有者またはその同意を得た者は、その原作品によって公に展示できます(同法45条1項)。展示する権利は本来作者にありますが(同法25条)、所有者による展示は認められています。ただし、街路や公園、建物の外壁など一般公衆に開放されている屋外の場所に恒常的に設置する場合は、この規定は適用されません(同法45条2項)。次に、原作品の譲渡についてです。作者は、原作品または複製物を譲渡して公衆に提供する権利を持ちますが(同法26条の2第1項)、作者またはその許諾を得た者により公衆に譲渡された原作品や複製物には、その後の譲渡には及びません(同条2項1号)。そのため、作者から買った原画を、買い手が転売することは、原則として自由です。
一方で、買い手が原画を複製してポストカードやグッズにする、ネットで配信する、といった利用には、作者の許諾が必要です(複製は同法21条、公衆送信は同法23条)。また、原画に加筆したり、切断して額装を変えたりして、作者の意に反して変更を加えることは、作者の同一性保持権(同法20条)に関わる問題になります。
原画を買った人が、できること・できないこと(一般的な整理)
| 利用の場面 | 買い手 | 備考 |
|---|---|---|
| 自宅や店内に飾る | ○ できる | 原作品の所有者として、公に展示することも認められる(著作権法45条1項) |
| 屋外に恒常的に設置する | △ 作者の許諾が要る場合がある | 一般公衆に開放された屋外への恒常的な設置には、45条1項は適用されない(同条2項) |
| 他人に転売・譲渡する | ○ できる | 許諾を得た者により公衆に譲渡された原作品には、譲渡権が及ばない(26条の2第2項1号) |
| 複製してポストカード・グッズにする | × 作者の許諾が要る | 複製権は作者にある(21条) |
| 画像をネットに載せる | △ 条件付き | 売却の申出のための掲載には、著作権者の利益を害しない措置を講じて行う例外がある(47条の2) |
| 加筆、切断など、作品を変更する | × 作者の意に反しては行えない | 同一性保持権(20条)。契約で、許される範囲を決めておく |
○=契約で別段の定めがなくても認められる、△=条件や作者の許諾が要る、×=作者の許諾がないとできない。契約書には、買い手ができることを具体的に書きます。
契約書に書いておきたいのは、次の点です。①原画の所有権は、代金の全額の支払いと引渡しの両方がそろった時に移ること。民法は、物権の移転は当事者の意思表示のみで効力を生じるとしていますから(176条)、特約がなければ契約の時に移りうるため、支払いや引渡しまで移さないなら、そう書きます。②著作権は作者に留保し、買い手には、原画を所有する者として認められる利用に加え、契約で定めた範囲の利用(たとえば、自分用の記録のための撮影、SNSでの紹介など)を許諾すること。③作者の氏名や作品名の表示の扱い(同法19条)。作者名を表示するか、ペンネームで表示するか。④画像の使い方と、転売するときの画像の扱い。
引渡し・配送・破損の危険をどう分けるか
原画は、一点ものです。壊れたからといって、同じものを送り直すことができません。だからこそ、危険(破損や紛失の責任)を誰が負うのかを、引渡しの前後ではっきり分けておきます。売買では、売主が買主に目的物を引き渡した場合に、その引渡しの時以後に、当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が滅失または損傷したときは、買主は、追完や代金の減額などを求められず、代金の支払いを拒めません(民法567条1項)。つまり、引渡しの時が、危険の分かれ目です。では、配送業者に託した時が引渡しなのか、買主の手元に届いた時が引渡しなのか。ここを決めていないと、配送中の事故で争いになります。
- 引渡しの時:買い手が受け取った時、または指定の場所に届いた時、と定める。配送業者に託した時を引渡しとするなら、そのことを説明し、保険を付けるかを決める。
- 梱包と配送:梱包の方法、配送業者、保険(運送の保険、作品の保険)、配送費の負担者、配送の追跡の方法。
- 到着後の確認:受領後○日以内に開梱して状態を確認し、破損を見つけたら通知する。通知の期限を過ぎた後の破損の主張は受け付けない。
- 色味の違い:画面で見た色と、実物の色の違いは、返品や減額の理由としない。ただし、客観的な取り違え(別の作品を送った、指定のサイズと違う)は別。
- 返却と交換:破損が配送中に生じた場合に、修復するのか、返金するのか、作者が応じる範囲。
注文を受けて描く場合(注文制作)は、完成した原画を引き渡す仕事で、請負として整理されます。完成のイメージ(サイズ、画材、モチーフ、構図)を、事前に書面で確認しておき、「完成した原画が気に入らない」という主観的な不満は、契約の内容に適合しないこととは別である、と書いておきます。注文者は、完成前なら、いつでも損害を賠償して契約を解除できます(民法641条)。ラフの確認、途中のキャンセル、修正の回数の決め方は、制作のトラブルとキャンセルのとおりです。
原画の販売・注文制作の流れと、書類
申込み・注文
作品の内容(既存の作品か、注文制作か)、サイズ・画材、価格、税込か税別か。消費者か事業者か。
契約・入金
所有権の移る時、著作権の扱い、キャンセルの条件。全額前払いか、着手金と残金か。
制作・確認
注文制作は、ラフの確認、修正の回数、完成の基準。
梱包・発送
梱包の方法、配送業者、保険、追跡の番号。
到着・確認
到着後の確認の期限、破損の通知。画面と実物の色の違いの説明。
引渡しの完了
所有権の移転、作品証明書、画像の使用の範囲の確認。
買い手が消費者か事業者かで、契約書を二本に分ける
原画の買い手には、店舗のロゴや内装のために注文する事業者と、コレクターとして買う個人(消費者)がいます。同じ条項でも、事業者との契約では有効でも、消費者との契約では無効になるものがあります。そこで、事業者向けと消費者向けの二本の契約書(または規約)を用意し、消費者向けの契約書には、通信販売の表示に必要な事項を組み込む、というのが実務的です。
| 条項 | 事業者との契約 | 消費者との契約 |
|---|---|---|
| 制作開始後は一切返金しない | 一般に有効とされやすいが、進捗に応じた清算の形のほうが維持しやすい | 解除に伴う違約金等は、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効(消費者契約法9条1項1号) |
| 故意又は重過失を除き責任を負わない | 有効とされやすい | 軽過失による債務不履行の責任を全部免除する条項は無効(同法8条1項1号) |
| 責任の上限を代金の総額とする | 有効とされやすい。故意・重過失は除く旨を書く | 軽過失に限ることを条項で明らかにしないと無効(同法8条3項)。故意・重過失の部分に上限をかけると無効(同条1項2号) |
| 期間内に通知がなければ承認したものとみなす | 有効とされやすい | 消費者の権利を制限し義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効(同法10条)。みなし承諾の条項は、この規定で争われ得る |
| 全額前払い | 有効 | 前払い自体は可能。ただし、返金の条件と一体で審査される |
買い手が事業者か消費者かは、名目ではなく、契約の実態で決まります。個人事業主であっても、事業として、または事業のために契約するなら、消費者契約法上は事業者です(同法2条)。そこで、受注の時に、事業として契約するのかを確認する、事業者向けの契約書では、「事業のために契約する」旨を買い手に表明してもらう、という運用をします。事業者向けの契約書を、実は消費者である相手に使うと、この契約書の条項が、想定どおりには働かなくなるためです。
インターネットで不特定の人に原画を売るなら、特定商取引法の通信販売の広告に当たります。販売価格、代金の支払いの時期・方法、商品の引渡時期、申込みの撤回または解除に関する事項などを表示する必要があります(同法11条)。通信販売では、商品を受け取った日から8日間は、申込みの撤回や契約の解除ができるのが原則です。ただし、それができない(または条件を付ける)旨の特約を、広告に表示していれば、その特約によります。インターネットでの申込みのような電子消費者契約の場合は、広告への表示に加え、申込みの最終の画面など主務省令で定める方法でも表示する必要があります(同法15条の3第1項ただし書)。原画のような一点ものでは、返品に応じない場合の条件を、広告・申込みの画面・契約書で同じ内容に統一して明確に表示しておくことになります。申込みを受ける最終の画面にも、分量、対価、支払の時期などを表示します(同法12条の6)。なお、営業のために契約する買い手には、通信販売の規定は適用されません(同法26条1項1号)。
書き方の例(一般的な例) 消費者向けの原画の契約
返金
「不返還」ではなく、進捗に応じた精算の形にしておくと、相手が事業者でも消費者でも維持しやすくなります。
免責
軽過失の全部免責は、消費者との契約では無効になり得ます。
返品の特約
返品の特約は、広告に表示してはじめて、法定の撤回等の制度に代わるものとして働きます。
版画の制作と販売:許諾の範囲と、刷り部数の管理
版画は、版を作り、紙に刷って仕上げる作品です。版画も絵画と並ぶ美術の著作物で(著作権法10条1項4号)、刷って同じ絵柄を再現すること(印刷による再製)は、複製に当たります(同法2条1項15号)。作者本人が刷って売る場合は、権利の問題は生じませんが、刷る作業や販売を、他の会社に任せると、事情が変わります。作者は、複製権(同法21条)、展示権(同法25条)、公衆送信権(同法23条)、譲渡権(同法26条の2)を持っていますから、販売を任せる会社が、作品を刷る、売る、サイトに載せる、といった行為をするには、作者の許諾が必要です。許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法と条件の範囲内でしか、作品を利用できません(同法63条2項)。
そこで、販売や広告を任せる契約には、許諾の範囲を具体的に書きます。
- 対象の作品:作品名、サイズ、技法。管理表で特定できるようにする。
- 利用の方法:複製(版画の製作を含む)、譲渡(販売)、展示、サイトや広告への掲載。それぞれを、許諾する範囲と、許諾しない範囲に分けて書く。
- 数量:作品ごとの刷り部数の上限。管理表に記録された範囲、またはあらかじめ作者と合意した範囲に限る。
- 期間と地域:許諾する期間と、販売する地域・媒体。
- 保管:原画と版は、作者が保管する。委託を受けた会社が持つ場合は、保管の方法、返却の時期、紛失時の責任。
- 再許諾:さらに第三者(印刷所、販売サイト)に任せるときは、作者の承諾を要する。
版画では、刷り部数(エディション)の管理が特に大切です。「限定○部」と告げて売る作品なら、その数を超えて刷ることは、買い手に対する約束を破ることになり、作者の信用に関わります。次のように、管理を仕組みにしておきます。
- 作品ごとに、刷る部数の上限(限定部数)を決め、上限を超える刷りは行わない、または作者の書面による承諾がなければ行わない、と定める。
- 一点ごとにシリアル番号(たとえば「3/50」の形式)を付け、作者の署名を入れる。
- 管理表に、作品名、技法、上限の部数、刷った部数、販売した部数、在庫の場所、価格を記録し、作者と販売を任せる会社の双方が見られるようにする。
- 試し刷りや、作者の手元に置く分、見本の扱いを、限定部数に含めるかどうか決める。
- 版を損傷させた、廃棄した、第三者に渡した、という事態に備え、版の管理と返却を決める。
- オリジナルの版画と、デジタルの印刷による複製画は区別して表示する。
作品の価格も、管理表で作者が決めておきます。販売を任せる会社が、作者に断りなく値引きをすると、作品の価値や、すでに買った人との関係に影響します。値引きの範囲を、あらかじめ決めておくか、作者の承諾を要する、とします。売上の分け方そのものは別の論点ですので、このページでは扱いません。
条文の書き方の例:版画の複製・販売の許諾と、部数の管理
1作者は、受託者に対し、別紙の管理表に記載する作品(以下「本件作品」という。)について、管理表に記録された範囲その他、作者と受託者が合意した範囲で、複製(版画の製作を含む。)及び譲渡の方法による販売を許諾する(著作権法21条、26条の2)。
2受託者は、前項の範囲を超えて、本件作品を複製してはならない。部数を増やすときは、作者の書面による承諾を得て、管理表に記録する。
3本件作品の原画及び版は、作者が保管する。受託者は、これらを預かる場合、善良な管理者の注意をもって保管し、作者の求めに応じて返却する。
4受託者は、本件作品を、第三者に再許諾し、又は作者の承諾なく価格を変更してはならない。
管理表は、契約書の別紙として扱い、更新したら作者・受託者の双方が確認できるようにします。
作品の画像を載せる・展示するときのルール
作品を売るには、画像を見せることが欠かせません。作者が、自分で撮った作品の画像を、自分のサイトに載せるのは、作者自身の権利の範囲内です。論点になるのは、買い手が転売するときや、展示で作品を貸し出すときの画像の使い方です。
美術の著作物の原作品や複製物の所有者などが、それを譲渡または貸与しようとするときは、その申出の用に供するため、作品を複製し、または公衆送信することができます。ただし、複製された画像を用いた複製や、公衆送信を受信しての複製を防ぎ、または抑える措置その他の、著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じる必要があります(著作権法47条の2)。つまり、買い手が転売のために、作品の画像を載せることは、条件付きで認められています。作者としては、これに加えて、契約書に、転売のための画像の使い方(大きさや画質を抑える、作者名を表示する)を書いておくと、安心です。
展示については、先ほどのとおり、原作品の所有者は、その原作品で展示でき、展示する者は、観覧者のために展示作品の解説や紹介をする小冊子(図録)に、その作品を掲載するために必要と認められる限度で、複製できます。ただし、作品の種類と用途、複製の部数と態様に照らして、著作権者の利益を不当に害する場合は、この限りではありません(同法47条1項)。展覧会に作品を貸し出す場合は、輸送と展示中の保険、展示の期間、図録への掲載の範囲、会場での撮影の可否を、貸出しの契約で決めておきます。
まだ公表されていない美術の著作物の原作品を譲渡した場合は、その作品を原作品による展示の方法で公に示すことに、作者が同意したものと推定されます(同法18条2項2号)。未公表の作品を売るときは、展示してよいのか、公表の時期と方法をどうするのかを、確認しておきます。作者の氏名や作品名の表示(同法19条)も、展示やサイトでの紹介で、どう表示するかを決めておきます。
確認リスト:画像・展示に関して、契約書で確認すること
- 1買い手が転売のために作品の画像を載せるとき、画像の大きさや画質、作者名の表示の条件を決めたか。
- 2ネット上の販売ページの画像に、色の見え方が実物と異なることを注意書きしたか。
- 3展示のための貸出しで、輸送、保険、展示の期間、図録への掲載、撮影の可否を決めたか。
- 4未公表の作品を売るとき、展示や公表の時期と方法を確認したか。
- 5掲載した画像を、無断で転載したり、生成AIの学習用に入力したりしないでほしい旨を、サイトに明記したか(生成AIと権利の考え方は生成AIと制作の契約)。
作家が指導を受ける、または教えるときの契約
作家の仕事には、作品の売買のほかに、制作や発信についての指導・助言を受ける、あるいは自分が教室で教える、という場面があります。ここでは、作品や素材の権利が誰に残るかが論点です。
作家が、制作や発信の指導を受ける場合
指導やアドバイスを受ける契約は、成果を約束するものではなく、助言や支援という事務を行う準委任として整理できます(民法656条、643条)。報酬は、特約がなければ請求できず(同法648条1項)、履行の割合に応じて請求できる場合もあります(同条3項)から、報酬と期間を書面で決めます。指導者は、売上などの成果を保証しないのが一般的です。作家の側は、何が「指導」で、何が「代行」なのか(指導者が代わりに作ってくれるのか、作家が自分で作るのを助けるのか)を確認しておきます。
権利の面では、次の点を決めます。作家の作品の画像、文章、プロフィールなどの著作権は、作家に残ります。指導者が作品の画像を教材や実績の紹介に使うには、作家の許諾が必要で、その範囲を目的に限って書きます。指導の過程で指導者が作った制作物の著作権と、指導の終了後にそれを作家が使い続けられるかも決めておきます。制作物の権利の考え方は著作権の譲渡と利用許諾にあります。
作家が、教室で教える場合
受講者が制作した作品の著作権は、原則として受講者に生じます。作家が添削して手を入れた場合でも、それだけで作家に著作権が移るわけではありません。教室の作品を、作家が実績の紹介、教材、展示、SNSで使うには、受講者の許諾を得ておく必要があります。申込みの時に、利用の範囲(作品の画像を載せる、受講者の名前を出すか)を選んでもらう方法が分かりやすくなります。また、受講者の作品を、作家が代わりに販売するのであれば、通常の受講契約とは別に、販売の委託の契約(許諾の範囲、価格、手数料、引渡し)を結びます。受講契約の作り方は、別のガイドで扱っています。
起きがちなこと:場面ごとの見直し
| 場面 | 起きがちなこと | 備え |
|---|---|---|
| 原画を売った後 | 買い手が、ポストカードやグッズを作ってしまう | 著作権は作者に残ること、買い手ができる利用を具体的に書く |
| 配送中の事故 | 破損したが、引渡しの前か後かで争う | 引渡しの時、梱包、保険、到着後の確認の期限を書く |
| 実物の色が違う | 画面と違うとして、返品を求められる | 色の見え方に差があることを事前に表示し、客観的な取り違え以外は理由としない |
| 消費者との契約 | 返金不可・全部免責の条項が無効になる | 事業者向けと消費者向けで契約書を分け、消費者向けには進捗に応じた精算と返品の特約の表示を入れる |
| 版画の刷り増し | 限定の部数を超えて刷られ、信用が下がる | 上限部数、シリアル番号、管理表、刷り増しの承諾を決める |
| 販売を任せた会社 | 許諾していない用途に作品が使われる | 対象の作品、利用の方法、数量、期間、再許諾の禁止を書く |
| 買い手の転売 | 転売のための画像の使い方で揉める | 転売時の画像の条件と、作者名の表示を書く |
| 指導を受けるとき | 作品の画像が指導者の教材などで勝手に使われる | 作品の権利は作家に残り、指導者への許諾は目的の範囲に限ると書く |
作品の売買は、一点ごとの取引で、一件ごとに契約書を作るのは大変です。そこで、①作品の所有権と著作権の整理、②引渡しと危険の分け方、③消費者向けと事業者向けの二つの型、④版画の許諾と部数の管理、の四つを、ひな形として整えておくと、販売のたびに、必要な部分だけを差し替えて使えます。作品を扱う外部の会社や、外注のクリエイターと組む場合は外注とフリーランス法も参照してください。
よくあるご質問
原画を売ったら、その絵の著作権も買い手に移りますか。
いいえ。原画という物の売買と、絵の著作権の譲渡は別です。著作権は、譲渡の契約をしない限り作者に残ります(著作権法61条1項)。買い手は、原画の所有者として、飾る、展示する、転売するといったことはできますが、複製して商品にする、ネットで配信する、といった利用には作者の許諾が必要です。契約書に、買い手ができることを具体的に書いておきます。
配送中に原画が破損しました。誰の負担ですか。
引渡しの前後で分かれます。民法は、引渡しの時以後に、当事者双方の責めに帰することができない事由で目的物が損傷した場合は、買い手が代金の支払いを拒めないとしています(567条1項)。そのため、引渡しの時を、買い手が受け取った時とするのか、配送業者に託した時とするのかを、契約書で決め、梱包、保険、到着後の確認の期限もあわせて書いておきます。
個人のコレクターに売る場合に、事業者向けと同じ契約書を使えますか。
使えるとは限りません。制作開始後の返金不可、軽過失を含めた免責、期間内に通知がなければ承認したものとみなす、といった条項は、消費者との契約では無効になり得ます(消費者契約法8条、9条、10条)。事業者向けと消費者向けの二本に分け、消費者向けには、進捗に応じた精算、軽過失に限った責任の上限、返品の特約の表示を入れます。
版画を限定部数で売るとき、契約書に何を書きますか。
作品ごとの上限部数、シリアル番号、管理表(刷った部数、販売した部数、在庫の場所)、刷り増しの禁止または承諾制、原画と版の保管者を書きます。販売を他の会社に任せるときは、複製(版画の製作を含む)、譲渡、展示、サイトへの掲載といった利用ごとに、許諾の範囲と数量、期間を書きます(著作権法21条、26条の2、63条2項)。
買い手が、転売するために原画の写真をネットに載せることは止められますか。
買い手が原作品を譲渡しようとする場合には、その申出のために作品を複製し、公衆送信することが、著作権者の利益を不当に害しないための政令の措置を講じることを条件に認められています(著作権法47条の2)。それ以外の用途への転載は許諾が必要です。契約書に、転売のための画像の大きさや画質、作者名の表示の条件を書いておくと、安心です。
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