Webデザイナー・イラストレーターが独立するときにそろえる書類

独立した日から、契約書の作り手は自分です。最初に一式をそろえておくと、案件ごとに迷わずに済みます。

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会社員時代と同じ感覚で、制作会社からの業務委託をメールのやり取りだけで受けていると、報酬や著作権の条件を後から確認できません。

このページの要点

  • 継続して取引する相手とは基本契約書、案件ごとには発注書(注文書)と請書という二段の形にすると、毎回の契約書づくりが楽になる。
  • 個人からも依頼を受けるなら、申込書と依頼規約を用意し、キャンセル・返金・利用の範囲を示す。
  • インターネットで有償の依頼を受け付けるなら、特定商取引法に基づく表記が必要になる場合がある。問い合わせフォームで個人情報を受け取るなら、プライバシーポリシーも置く。
  • 制作会社から業務委託で受ける場合は、フリーランス法の取引条件の明示を受けられる立場かを確認し、条件をメールでも残す。
会社を辞めて独立した日から、契約書の作り手は自分です。案件が来てから慌てて契約書を探すより、最初に一式をそろえておくほうが、受注の判断も早くなります。ここでは、Webデザイナー、デザイナー、イラストレーターが独立するときに用意しておきたい書類を、仕事の受け方ごとに整理します。

仕事の受け方で、必要な書類が変わる

仕事の受け方と、用意しておく書類
仕事の受け方用意しておく書類ポイント
制作会社・代理店から継続して受ける業務委託基本契約書、個別の発注書(注文書)と請書フリーランス法の取引条件の明示を受けられる立場。条件をメールでも残す
企業から直接、案件ごとに受ける制作契約書、見積書、仕様書制作範囲、修正の回数、検収、著作権を必ず書く
個人からインターネットで依頼を受ける申込書、依頼規約、特定商取引法に基づく表記、プライバシーポリシーキャンセル・返金・利用の範囲を、申込みの前に示す
自分の作品・素材を販売する利用規約(ライセンスの範囲)、特定商取引法に基づく表記購入者が使える範囲(商用利用・改変)を明示する
打合せで資料を受け取る秘密保持契約書契約の打診の段階から結べるよう、単体の秘密保持契約書を用意する

継続取引は「基本契約書+発注書」の二段にする

同じ相手から何度も仕事を受けるなら、毎回すべての条件を書いた契約書を交わすのは手間がかかります。共通の条件(著作権、秘密保持、検収、支払の方法、責任の範囲、解約)を基本契約書にまとめ、案件ごとの条件(業務の内容、報酬、納期)を発注書に書く二段の形にすると、案件ごとのやり取りが簡単になります。

契約は、申込みに対して承諾をしたときに成立し、書面は必ずしも必要ありません(民法522条)。そのため、発注書を受け取ったら、請書(注文請書)を返すか、メールで承諾の返信をして、どの条件で引き受けたのかを残しておきます。見積書と仕様書の書き方は見積書・仕様書のページで扱っています。

独立後の受注の流れと書類

  1. 問い合わせ

    秘密保持契約書(資料を受け取る前に)

  2. 見積り

    見積書(範囲・前提条件・修正回数・有効期限)

  3. 契約

    基本契約書+発注書・請書、又は制作契約書

  4. 制作

    仕様書・ワイヤーフレームの確定の記録

  5. 納品・検収

    納品の記録、検収の結果の通知

  6. 請求・支払

    請求書、支払期日の確認

個人から依頼を受けるなら、依頼規約と表記を用意する

イラストやアイコン、名刺のデザインなど、個人から依頼を受ける場合は、相手が契約書に慣れていないことを前提に、申込みの前に読める依頼規約を用意します。依頼規約には、利用の範囲(個人利用・商用利用・二次利用)、ラフと修正の回数、納期、キャンセルと返金、実績公開の扱いを書きます(イラストの依頼規約のページ)。

インターネットで不特定の人から有償の依頼を受け付けることは、特定商取引法の通信販売に当たり得ます。この場合、広告に当たる依頼の受付ページなどに、事業者の氏名、住所、電話番号、価格、支払の時期と方法、提供時期、キャンセルに関する事項などを表示する必要があります(特定商取引法11条)。個人の事業者は、自宅の住所や電話番号を常に表示することに抵抗があるかもしれませんが、一定の要件のもとで、請求があれば遅滞なく提供する旨を表示して省略する方法もあります。

問い合わせフォームや申込書で氏名やメールアドレスを受け取るなら、利用目的などを示すプライバシーポリシーも置いておきます。

依頼者が事業者か個人かで、免責・キャンセル・前払いの条項の有効性が大きく変わります。事業者だけを相手にするなら、受注の時に事業者であることを確認し、契約書で「事業者として契約する」ことを表明してもらいます。相手が事業のためではなく個人として契約する場合(消費者)は、消費者契約法がかかり、事業者の所在地の裁判所だけを管轄とする条項なども争われやすくなるので、個人向けの規約では「利用者が消費者の場合は、法令上認められる裁判所に訴えを提起することを妨げない」と書いた例があります。

個人から受けるなら、プライバシーポリシーと規約の変更の手順

個人から依頼を受けると、氏名、連絡先、SNSのアカウント、依頼の内容、参考の資料といった個人情報を受け取ります。外注のクリエイターに依頼の内容を共有する場合や、海外の事業者が運営するチャット・クラウド・決済のサービスを使う場合は、委託や外国にある第三者への提供の整理が必要になります。依頼のやり取りの画面を実績の投稿に使う場合も、プライバシーポリシーに関わります。

依頼規約が定型約款に当たる場合、すでに成立している契約の内容を規約の変更で改めるには、変更が利用者一般の利益に適合するか、契約をした目的に反せず、変更の必要性、変更後の内容の相当性、変更をすることがある旨の定めの有無などに照らして合理的であることが必要で、効力の発生日と変更後の内容を事前に周知します(民法548条の4)。料金などの数字を規約に書き込んでいると、進行中の依頼にまで改定を及ぼすときにこの手続が問題になるので、数字は見積書や料金表に分けておくのが実務的です。

前払いと着手金で、未払いのリスクを減らす

独立したばかりのころは、初めて取引する相手が多くなります。制作がすべて終わってから報酬をまとめて受け取る形では、未払いになったときの損失が大きくなります。個人からの依頼は全額前払い、企業からの依頼は着手時に一部、納品時に残り、のように、取引の相手と金額に応じて支払の条件を決めておきます。

着手金を受け取る場合は、それが制作費の前払いなのか、仕様の確認などの別のサービスの対価なのかを決めておきます。前払いであれば、キャンセルされたときは作業の進み具合に応じて精算するのが基本です。支払の条件は、見積書と契約書の両方に同じ内容で書きます。

実績公開の許諾を、最初から契約に入れておく

独立したデザイナーにとって、制作実績は営業の生命線です。しかし、著作権を発注者に譲渡した場合や、秘密保持の約束をしている場合、制作物を勝手にポートフォリオに載せることはできません。実績として公開したいなら、公開できる範囲(全体か一部か、社名を出すか)と時期(公開日の後か、一定期間の後か)を、契約書で決めておきます。

(実績としての公開)

1受託者は、成果物が公開された後、成果物の画像及び委託者の名称を、受託者の制作実績として受託者のWebサイト、ポートフォリオその他の営業資料に掲載することができます。

2委託者が前項の掲載を望まない場合、又は掲載の範囲を限定したい場合は、契約の締結時にその旨を申し出るものとし、受託者はこれに従います。

著作権を譲渡する契約でも、この条項があれば、譲渡後の実績公開の根拠になります。

ご相談の場面から:会社員時代の制作物

ご相談

会社員のときにデザインしたサイトを、独立後のポートフォリオに載せてよいですか。

事務所

会社の業務として作ったものは、職務著作として会社が著作者になる場合があります(著作権法15条)。会社や当時の発注者との秘密保持の約束も残っていることがあります。載せたい場合は、元の勤務先の承諾を得るか、担当した旨を文章で紹介するにとどめるのが安全です。

契約の当事者は、戸籍上の氏名で特定し、屋号は併記します。届出をしていない屋号でも、「屋号こと氏名」と書けば足ります。個人の事業者から法人に切り替えるときは、個人で制作した作品の著作権と契約上の地位を、法人に移す手当てが必要です。利用を許諾した相手に対しても、法人に切り替えた後も許諾が続く旨を入れておくと安心です。

書類の保存と、電子契約

契約書、見積書、発注書、承認のメール、納品と検収の記録、請求書は、トラブルが起きたときの証拠になります。案件ごとにフォルダを分けて保存し、メールやチャットのやり取りも、重要な合意の部分は保存しておきます。

契約書を紙で交わさず、電子契約のサービスで締結することも一般的になりました。契約書の中で締結の方法を特定のサービスの名前で固定すると、サービスを乗り換えたときに条項が使えなくなるので、「電子契約又は書面のいずれでも締結でき、いずれも原本として同等の効力を持つ」と書いておきます。署名の順番(どちらが先に署名するか)も、サービスによって設定の方法が違うので、乗り換えたときには確認します。

ご相談の場面から:取引先が契約書を出してくれない

ご相談

取引先から「うちは契約書は作らない、メールで十分」と言われました。どうすればよいですか。

事務所

契約書を交わさなくても、契約はメールのやり取りで成立し得ます。そのかわり、業務の内容、報酬、納期、修正の回数、著作権の扱い、支払期日を、こちらから確認のメールにまとめて送り、「この内容で進めます」と返事をもらっておきます。相手がフリーランス法の対象になる発注者であれば、取引条件を明示する義務は相手にあるので、明示を求めることもできます。自分で作った発注書・請書の様式を使ってもらうのも一つの方法です。

秘密保持契約書は、単体で使える形にしておく

打合せで、発注者の新しいサービスの情報や顧客の情報を受け取ることがあります。契約の打診の段階から使えるよう、秘密保持契約書は、ほかの契約書の条番号を引用しない、一通で完結する形で用意しておきます。受ける側の立場では、秘密情報の範囲が「一切の情報」になっていないか、期間に終わりがあるか、外注先に開示できるか、賠償に上限があるかを確認します。個人で受ける以上、賠償に上限がない契約は、事業の規模に見合わない責任を負うことになります。

独立前に確認しておきたいこと

確認リスト:独立の準備

  1. 1前の勤務先との間に、競業避止や秘密保持の約束が残っていないか
  2. 2会社員時代の制作物を、実績として公開してよいか
  3. 3使っているフォント・写真素材・ソフトウェアのライセンスが、個人の商用利用に対応しているか
  4. 4屋号で契約する場合の、契約書の名義(屋号と氏名の併記)
  5. 5基本契約書、発注書・請書、制作契約書、依頼規約、秘密保持契約書の様式
  6. 6インターネットで受け付けるなら、特定商取引法に基づく表記とプライバシーポリシー

外注先を使うようになったら、自分が発注する側としての契約も必要になります(外注・フリーランス法のページ)。ホームページ制作の契約書の条項はホームページ制作の契約書のページで扱っています。

よくあるご質問

独立したら、最初にどの契約書を用意すればよいですか?

仕事の受け方によります。制作会社から継続して受けるなら業務委託基本契約書と発注書・請書、企業から案件ごとに受けるなら制作契約書と見積書・仕様書、個人から依頼を受けるなら申込書・依頼規約・特定商取引法に基づく表記・プライバシーポリシーが中心です。秘密保持契約書は、どの場合も用意しておくと便利です。

メールのやり取りだけで仕事を受けても、契約は成立していますか?

契約は、申込みに対して承諾をしたときに成立し、書面は必ずしも必要ありません(民法522条)。ただし、条件が明確でないと後で争いになるので、業務の内容、報酬、納期、修正の回数、著作権について、メールでも明確に確認しておきます。

個人のイラストレーターでも、特定商取引法に基づく表記は必要ですか?

インターネットで不特定の人から有償の依頼を受け付けるなら、通信販売に当たり得るため、表記が必要になる場合があります。住所や電話番号は、一定の要件のもとで、請求があれば遅滞なく提供する旨を表示して省略する方法もあります。

会社員時代に作ったデザインを、ポートフォリオに載せてもよいですか?

会社の業務として作ったものは、職務著作として会社が著作者になる場合があり、秘密保持の約束が残っていることもあります。元の勤務先の承諾を得るか、担当した旨を文章で紹介するにとどめるのが安全です。

屋号で契約書を作ってもよいですか?

屋号だけでは、契約の当事者が誰かが分かりにくくなります。個人の事業者であれば、屋号と氏名を併記して、契約の当事者が自分であることを明確にします。

事業者だけを相手にするなら、そのことを契約書に書くべきですか?

書いておくべきです。相手が個人として契約していると、消費者契約法などがかかり、免責やキャンセルの条項の効力が変わります。受注の時に事業者であることを確認し、契約書で表明してもらいます。

依頼規約を変更したいとき、何をすればよいですか?

依頼規約が定型約款に当たる場合、すでに成立している契約の内容を変えるには、利用者一般の利益に適合するか、契約の目的に反せず、変更の必要性・内容の相当性・変更条項の有無などに照らして合理的であることが必要で、効力の発生日と内容を事前に周知します(民法548条の4)。新しい申込みに新しい料金を適用するだけなら、この手続は要りません。

個人事業から法人にしたら、以前の契約や作品の権利はどうなりますか?

個人で制作した作品の著作権や、個人で結んだ契約上の地位は、当然には法人に移りません。法人に移す手当てをし、利用を許諾した相手には、法人に切り替えた後も許諾が続く旨を伝えておきます。

電子契約で契約を交わしても大丈夫ですか?

電子契約でも契約は有効に成立します。契約書の中で特定のサービスの名前に固定せず、「電子契約又は書面のいずれでも締結できる」と書いておくと、サービスを乗り換えても条項が使えなくなりません。

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