このページの要点
- 受ける範囲(デザインのみ、印刷の手配まで、製造の手配まで)を契約の目的で特定し、デザイン料と印刷・製造の実費を見積書で分ける。
- デザインに入る前に文言を確定し、校了を定義する。校了後の変更は追加の費用とスケジュールの変更にする。発注者が確定した指図の誤りに気づいたら、必ず指摘する(民法636条ただし書)。
- 製造まで受けるときは、最小ロット、数量の許容差、不良の定義と通知期間、承認サンプルを品質の基準とする。商人間の売買では検査と通知が必要(商法526条)。
- 採用されなかった案は発注者に使わせず、再提案の条件を定める。取引先による目的外の使用と競合品の製造を契約で禁じる。著作権は報酬の全額支払時に譲渡する。
パッケージ、チラシ、ステッカーやグッズ。紙や物になるデザインは、画面の中で完結するデザインと違い、「印刷してみたら色が違う」「校了したのに誤字があった」「届いた数が足りない」といった、物ならではの事故が起こります。デザイン料だけを決めた契約書では、こうした事故の費用と責任を誰が負うのかが決まりません。結論として、契約書に入れておきたいのは次の七つです。
- どこまでを受けるか(デザインだけか、印刷の手配までか、製造の手配まで受けるか)を決め、見積書の費用を分ける。
- デザインに入る前に文言を確定し、校了の後の変更は追加の費用とスケジュールの変更にする。
- 色の違い、裁断の誤差、印刷の事故について、許容の範囲と、責任の分け方を書く。
- 製造まで受けるときは、最小ロット、数量の過不足、送料、不良の通知期間、品質の基準(承認したサンプル)を決める。
- 採用されなかった提案デザインの扱い(再提案できるか)と、取引先による模倣の防止を決める。
- 入稿データ・元データの引渡しの範囲と、著作権の譲渡の時期(報酬の全額支払時)を書く。
- 金額は、税込か税別かを必ず明記する。
Webサイトの制作契約はホームページ制作の契約書で、ロゴの制作はロゴ制作の契約で扱っています。このページは、印刷物やパッケージ、グッズのデザインを受けるときに特有の論点を中心にします。
受ける範囲で、契約の性質と責任が変わる
同じ「チラシのデザイン」でも、データを納品して終わりの場合と、印刷会社に発注して刷り上がった印刷物まで届ける場合とでは、負う責任が違います。さらに、ステッカーや雑貨のようなグッズでは、デザインに加えて、製造先を探して発注し、検品して納品する仕事まで頼まれることがあります。どこまで受けるのかを、契約書の冒頭の目的・業務の範囲で特定し、見積書の費用も分けておきます。
| 受ける範囲 | 契約の性質 | 受注者の責任の中心 | 見積書の分け方 |
|---|---|---|---|
| デザインのみ | 完成したデザインのデータを納品する仕事(請負)。助言を中心にするなら準委任 | データの内容が仕様に合っていること、入稿に必要な形式で納品すること | デザイン料、修正の回数、データの形式 |
| 印刷の手配まで | デザインに加え、印刷会社への発注と印刷物の納品を引き受ける | 入稿の不備による刷り直しの責任。印刷工程の事故は印刷会社の規約との関係で整理 | デザイン料、印刷費(実費)、手配の手数料、送料 |
| 製造の手配まで | デザインと、製造・検品・納品を一体で引き受ける。請負と売買の両方の性質を持つと整理されることがある | 品質の基準に合った物を、数量どおり、期日までに納めること。不良の扱い | デザイン料、製造費、最小ロットと単価、送料、検品の費用 |
製造して供給する契約は、物を作ることを約する面(請負)と、できた物を引き渡して代金を受け取る面(売買)の両方を持ちます。民法は、売買の規定を、性質が許さない場合を除いて、売買以外の有償契約に準用しています(559条)。そのため、引き渡した物が契約の内容に適合しないときの追完請求や代金減額請求(562条、563条)の考え方が、製造を受ける契約でも関わってきます。ただ、条文に頼るよりも、契約書で何を約束するのか(品質の基準、数量、期日、不良の扱い)を具体的に書くほうが確実です。
印刷の手配までを受ける場合は、費用の流れを決めておきます。典型は、①受注者が印刷会社に発注し、代金を立て替えて、デザイン料と合わせて発注者に請求する形、②発注者が印刷会社と直接契約し、受注者は入稿用のデータの作成と入稿の支援だけを受け持つ形、の二つです。前者は受注者が資金を先に出し、印刷の事故の責任も負いやすくなります。そのため、印刷費は事前に支払ってもらい、入金を確認してから発注する、印刷の工程で生じた誤りや色味の違いは、印刷会社の規約に従い、発注者が印刷会社と直接やり取りして対応する、という切り分けが考えられます。
| デザイン料 | パッケージ一面分(校正の回数を含む)。金額と、税込か税別かを記載 |
|---|---|
| 印刷・製造費(実費) | 部数、用紙・素材の指定、加工、単価。実費であることを明記 |
| 手配の手数料 | 印刷会社・製造先との調整、入稿、検品の対応に対する費用 |
| 送料・保管 | 納品先ごとの送料、梱包、納品前の保管の期間と費用 |
| 追加の費用の例 | 校了後の文言変更、色校正の追加、再入稿、急ぎの対応 |
| 前提条件 | 文言の確定日、素材の提供期限、最小ロット、数量の許容差 |
デザインの対価と、印刷・製造の実費は、項目を分けて書きます。実費を含む総額だけを示すと、不良や再製造の費用が誰のものかが曖昧になります。
税については、金額が税込か税別かを、見積書と契約書で必ず明記しておく、という点にとどめます。見積りの出し方と、見積書を契約の一部にする方法は見積書・発注書と仕様書のページにあります。
文言を確定してから、デザインに入る
パッケージやチラシの手戻りで最も多いのは、デザインがほぼできあがった後に、文言(キャッチコピー、商品名、価格、注意書き、連絡先)が変わることです。文言が変わると、レイアウトの組み直しになり、作業量はほぼ最初からのやり直しに近くなります。そこで、デザインの工程に入る前に文言を最終決定してもらい、デザインの工程に入った後の文言の変更は原則として認めない、認める場合は追加の費用とスケジュールの変更を了承してもらう、という流れを契約に書きます。
文言の確定から入稿までの工程と、確定点
文言の確定
原稿・商品名・価格・法令で求められる表示事項を発注者が確定し、日付の残る形で提出する。この日を文言の確定日とする。
ラフ・デザイン
確定した文言をもとにレイアウトを作る。修正は回数を決め、方向性の変更は追加の費用とする。
校正
文字の誤り、数字、色の指定を確認する。校正の回数と、確認の期限を決める。
校了
発注者が「この内容で印刷してよい」と承認した時点。以後の変更は追加の費用と、スケジュールの変更。
入稿
印刷会社・製造先に、印刷用のデータを渡す。入稿後は、データの差し替えができない場合がある。
「校了」の意味を契約書で決めておきます。たとえば、発注者が書面またはメールで承認した時、または確認の期限が過ぎた時、という二つの要件で定義します。校了後に誤りが見つかった場合に、誰の責任で、費用を誰が負うのかも書きます。表示の内容そのもの(価格、効能、原材料、法令で求められる表示事項など)の正確さと適法性は、発注者が最終確認して承認する、受注者がデザインの過程で気づいた疑問点は指摘するが、確認の責任は発注者にある、と整理しておくのが一般的です。
ここで注意したいのは、民法636条です。請負人が仕事の目的物を引き渡した場合に、注文者の与えた指図によって生じた不適合を理由とする追完請求などはできないとされますが、請負人がその指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りではありません。つまり、発注者が確定した文言に誤りがあることに気づいた場合は、黙って進めず、必ず指摘して、記録を残します。指摘しても発注者が「そのまま進める」と決めたのであれば、その経緯がメールなどで残っていれば、責任の所在がはっきりします。
条文の書き方の例:文言の確定と校了
1発注者は、デザインの作業の開始前に、制作物に掲載する文言、画像、数値その他の内容(以下「掲載内容」という。)を確定し、受注者に提出する。確定した日を、文言の確定日とする。
2文言の確定日以後に、掲載内容を変更するときは、発注者は、受注者に通知する。受注者は、変更の可否、追加の費用及び納期への影響を示し、発注者の承諾を得て対応する。
3発注者は、校正の内容を確認し、書面又は電磁的方法で承認した時、又は受注者が示した確認の期限内に回答しなかった時に、校了とする。校了後の変更は、追加の費用及び納期の変更を伴う。
4掲載内容の正確さ及び関係法令への適合は、発注者が最終的に確認し、責任を負う。受注者は、作業の過程で疑問を持った点を発注者に指摘する。
書き方の例(一般的な例) 文言の変更と校了
文言の変更
「軽微」の判断が主観になるため、文言の変更を一律に別の扱いにします。
校了
どの時点から責任が発注者に移るのかを、日付で特定できるようにします。
デザインを代理店や制作会社の下請として受ける場合は、さらに、発注者の先にいる依頼主(エンドクライアント)の意向が入ってきます。依頼主との調整と指示の確定は発注者の責任とし、依頼主の意向による修正や変更、遅延は追加の作業として扱い、受注者は依頼主から直接指示を受ける義務を負わない、と書いておくのが基本です。修正の回数や、確認が来ないときの扱いは制作のトラブルとキャンセルに、外注の連鎖は外注とフリーランス法にまとめています。
色の違い・裁断の誤差・印刷事故の責任の分け方
画面で見る色は光の色(RGB)で、印刷物の色はインクの色(CMYKなど)です。同じデータでも、用紙の種類、インクの種類、印刷機によって、仕上がりの色は変わります。画面で見た色と刷り上がりが違う、というクレームは、避けにくいものです。裁断(紙を断つ工程)や折りにも、ごく小さなずれが生じますし、印刷や製造の現場では、一定の誤差が許される前提で取引が行われています。そこで、契約書には、許容の範囲と、確認の方法、責任の分け方を書いておきます。
- 色の確認:紙で確認する工程(色校正)を行うか。簡易な確認にとどめるか、実際の用紙での確認を行うか。色校正を省略して進める場合は、色の違いを理由に争わないことを承諾してもらう。
- 色の指定:色見本や指定の色番号がある場合は、それを基準とし、基準がない場合は、画面の色と一致しないことがあることを、あらかじめ説明しておく。
- 許容の範囲:色調、裁断の位置、折りのずれ、印刷のかすれなどについて、業界で通常許される範囲を超えない限り、契約の内容に適合しないとはみなさない、と定める。
- 再印刷の費用:誰の原因で刷り直しになるのかで、費用の負担者を分ける。
| 場面 | 原因 | 責任の分け方 |
|---|---|---|
| 校了した文言に誤りがあった | 発注者が確認した内容に誤りがあった | 発注者が刷り直しの費用を負担する。受注者が誤りに気づきながら指摘しなかった場合は別 |
| 入稿データの不備で、印刷が崩れた | 受注者が作ったデータに、仕様違反(塗り足し、文字の扱いなど)があった | 受注者がデータを直し、刷り直しの費用の一部または全部を負担する |
| 印刷会社の工程で、色や断裁に異常があった | 印刷会社の工程のミス | 印刷会社の規約に従う。受注者が印刷会社を選んで発注した場合は、受注者が窓口になるが、負担の範囲は印刷会社の責任の範囲に合わせる、と定める |
| 画面の色と、刷り上がりの色が違う | 表示方法の違いによる、通常の差 | 許容の範囲内であれば、契約の内容に適合する。事前に説明していたかが重要 |
| 確認の遅れで、納期に間に合わない | 発注者の確認の遅れ | 納期を延期し、延期に伴う追加の費用は発注者が負担する |
印刷の手配までを受ける場合の落とし穴は、印刷会社との間の約款です。印刷会社は、たいてい、責任を「再印刷または代金の返還」に限り、それ以上の損害(発注者の販売機会の損失など)は負わない、という約款を持っています。受注者が印刷会社に自分の名前で発注すると、印刷会社の責任は限られているのに、発注者に対する受注者の責任は限られていない、という板挟みが起きます。そこで、発注者との契約で、受注者の責任の範囲を、印刷会社が受注者に負う責任の範囲に揃えるか、そもそも受注者の責任の上限を、その依頼について受け取った料金の総額とする、と書きます。相手が事業者でない個人のとき、軽過失を含めて責任を全部免除するような書き方は、消費者契約法8条1項1号により無効になりますから、上限は、軽過失に限ることを明らかにし、故意または重大な過失の場合は上限をかけない形にしておきます(同法8条1項2号、3項)。
条文の書き方の例:色調・裁断の誤差
1印刷物の色調は、使用する用紙、インク及び印刷機の違いにより、画面上の色又は色校正と異なることがある。発注者は、このことを承諾する。
2色調、裁断の位置、折りその他の仕上がりの差が、印刷業界で通常許容される範囲内にあるときは、契約の内容に適合しないものとはみなさない。
3発注者が色校正を省略して印刷を進めることを希望した場合は、色調の違いを理由として、再印刷又は代金の減額を求めることができない。
製造の手配まで受けるときの、数量・ロット・不良
グッズやステッカー、パッケージの実物まで引き受けると、受注者は、デザイナーであると同時に、製造を取りまとめる立場にもなります。この立場で最も多いのが、数量、ロット、不良の三つの論点です。
最小ロットと数量の過不足
製造先には、それ以下では作れない最小の数量(最小ロット)があります。見積りの段階で、最小ロットと、それに満たない数量を希望された場合の扱い(単価が上がる、受けられない)を伝えておきます。また、印刷や製造では、指定の数量ぴったりに仕上がらず、数%の過不足が出るのが通常です。過不足を許容する範囲と、不足分の追加製造や、超過分の請求の扱いを、あらかじめ決めておきます。送料、梱包、納品先が複数のときの分納、納品前の保管の期間と費用も、見積書の項目に入れておきます。
品質の基準:承認したサンプル
グッズの製造では、仕様書だけでは、色や質感、風合いを正確に定められません。そこで、発注者が最終的に承認したサンプルを品質の基準にする方法があります。決めておきたいのは、承認サンプルと仕様書が食い違うときの優先順位(別段の合意がなければ承認サンプルを優先する、など)、承認サンプルに「合理的に同一」と認められる範囲、色の許容の範囲(限度を示す見本や、目視の基準)、承認サンプルの保管の主体と期間です。量産は、承認サンプルが決まってから量産を始める、と書いておくのも重要です。承認が出る前に製造に入った分は、受注者が自分の責任で負う範囲になります。
不良の定義と、通知の期間
不良とは何かを、契約書で定義します。基準に適合せず、販売または使用に適さない状態にあるもの、というように、品質の基準と結びつけて書きます。そのうえで、同じ製造のまとまり(ロット)に許される不良の割合を、別紙で決めるやり方もあります。受注者としては、基準を超える不良が出たときにだけ、再製造や代金の減額の義務を負う、と整理できます。不良を見つけた場合の通知の期間も、決めておきます。商人どうしの売買では、買主は、目的物を受け取ったら遅滞なく検査し、契約の内容に適合しないことを発見したときは直ちに売主に通知しなければ、追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除ができなくなります。直ちに発見できない不適合は、6か月以内に発見したときにも同様の通知が必要です。売主が悪意であれば、この制限は働きません(商法526条)。
製造を受ける契約が、商法526条の「売買」として扱われるかは、契約の実態によります。そのため、条文に頼らず、契約書に「受領後○日以内に検査し、不良があれば通知する」と書いておくのが確実です。事業者どうしの取引では、通知期間を短く設定することは、通常有効です。ただし、相手方から期間の延長を求められる場合もあります。そのときは、期間を延ばす代わりに、起算点を納品日(受領した日)に固定する、主観的な不満は不良に含めない、客観的な基準との不一致に限る、という条件を付けるのが、交渉の現実的な落としどころです。
書き方の例(一般的な例) 不良の通知期間
通知期間
「速やかに」では起算点も期限も決まらないので、日数と起算点を書きます。
不良の範囲
好みや主観の不満を、不良に含めないようにします。
責任の範囲
無限の責任を負わないよう、不良のあったロットの代金を目安に上限を置きます。
不良品や余剰品の扱いも決めておきます。製造先に残る不良品、検査に通らなかった品、予備の品を、製造先が無断で外部に販売したり、横流ししたりしないこと、発注者または受注者の指示に従って、返却、保管、廃棄をすること、廃棄したときは写真などで証明すること、を書きます。ブランドの価値や、デザインの独自性を守るために大切な条項です。商品を、販売店に卸す場面はキャラクターのライセンスのページの「自分のデザインの商品を、お店に卸す場合」と「契約が終わった後の在庫」もあわせて確認してください。ブランドの側から見た製造委託の契約は、別のガイドで扱っています。
採用されなかった案の再提案と、模倣の防止
コンペのように、複数の案を提案したうえで、一つが選ばれる取引では、採用されなかった案の扱いが問題になります。デザインの著作権は、制作した受注者に残るのが原則です。採用されなかった案を、発注者が勝手に使うことは、契約で禁じておきます。一方で、受注者が、その案を一定期間の経過後に、他の会社へ再提案してよいか、という点があります。発注者のブランドらしさに近い案は、別の会社に出すと紛らわしくなるため、再提案を認める期間(発注者の独占の期間)、対象の範囲(同じ業種には出さない、など)、発注者の商品名、ロゴ、秘密情報が含まれる部分は再利用しない、という条件を付けます。
書き方の例(一般的な例) 採用されなかった案
発注者の使用
採用しなかった案を、後から発注者が使う事態を防ぎます。
受注者の再提案
発注者のブランドへの配慮と、受注者の資産の活用を両立させます。
もう一つの問題が、取引先による模倣です。デザインを渡した製造先や、デザインを使って商品を売る販売先が、同じ、または似た商品を、自分のために作って売ることがあります。これを防ぐには、①契約で、製造先が受け取ったデザイン、図面、型、サンプルを、本契約の目的以外に使うことを禁じる、②期間を決めて、同一または類似の商品を、自分でも第三者のためにも製造、販売しないと約束させる、③ブランドの表示を外したり、仕様を少し変えたりしても、実質的に同一または類似と認められるものは含める、と書きます。法律の面では、デザインを無断で複製すれば複製権の侵害(著作権法21条)、翻案すれば翻案権の侵害(同法27条)の問題になります。また、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡するなどの行為は、不正競争に当たり、差止めを求められます(不正競争防止法2条1項3号、3条)。ただし、いずれも、要件を満たすかを争われます。契約で先に禁止しておくほうが、実際には使いやすい手段です。
逆の立場、つまり受注者が、他社の既存のデザインに似たものを作ってしまうリスクもあります。第三者の権利を侵害しないことを「保証」するのではなく、「知る限り侵害しない」という範囲にとどめるのが無難です。この点はロゴ制作の契約の「他人のロゴと似ていた場合の責任」と同じ考え方です。
入稿データ・元データの引渡しと、著作権の譲渡の時期
印刷物やパッケージの納品物は、通常、印刷会社に渡すための入稿用データです。デザインの元データ(レイヤー構造を持ち、後から編集できる形式のデータ)は、別の扱いにするのが一般的です。納品物の範囲を、契約書または見積書で決めておきます。
- 入稿用データ:形式、色の設定、塗り足し、文字の扱い(図形に変換しておくか)など、印刷会社が指定する条件に沿った形で納品する。納品の形式が決まっていないと、後から「使えない」と言われる。
- 元データ:渡すのか、渡さないのか。渡さない場合は、後からの修正を受注者が受けること。渡す場合は、追加の料金、利用の範囲、再配布の禁止を書く。
- フォントと素材:有償のフォントやストック素材は、受注者名義のライセンスで使ったものを、そのまま発注者に譲渡することはできない。発注者の用途(印刷の部数、媒体)が、ライセンスの範囲に収まるか。ライセンスを誰が取得するか、費用を誰が負担するか。
- 納品の完了:データを受領できる状態に置いた時点で納品を完了とする。ダウンロードの期限と、期限後の再送の扱い。
素材やライセンスの一般的な考え方はホームページ制作の契約書の「素材とプラグインのライセンス」にもあります。
著作権は、制作した受注者に生じ、譲渡しない限り受注者に残ります。譲渡する場合は、翻案権等(著作権法27条)と、二次的著作物の利用に関する権利(同法28条)を、譲渡の目的として特に書いておかないと、譲渡した人に残ったものと推定されます(同法61条2項)。譲渡の時期は、報酬の全額が支払われた時にしておくと、未払いのときに権利だけが移ってしまう事態を防げます。それまでの間は、目的と範囲を限った利用の許諾(同法63条)にとどめます。著作者人格権は譲渡できませんから(同法59条)、譲渡する契約では、不行使の特約を置くのが一般的です。受注者が従前から持っている汎用の素材やひな形、第三者から購入した素材は、譲渡の対象から外します。詳しくは著作権の譲渡と利用許諾のとおりです。
パッケージやグッズは、発売前の情報が秘密です。実績としての公開は、商品の発売後に限る、発売前に公開するときは発注者の承諾を得る、と書いておくと、発注者の安心につながります。受注者の側では、公開できる時期と範囲を、契約の時点で決めておけば、ポートフォリオに載せられないという事態を避けられます。
起きがちなこと:場面ごとの見直し
| 場面 | 起きがちなこと | 備え |
|---|---|---|
| デザインの完成間近の変更 | キャッチコピーや価格が変わり、ほぼ作り直しになる | 文言の確定日を決め、確定日以後の変更は追加の費用とスケジュールの変更にする |
| 校了後に誤字が見つかる | 誰が刷り直しの費用を負うかで争う | 校了を定義し、確認した内容の誤りは発注者が負担すると書く。気づいた疑問点は記録に残して指摘する |
| 刷り上がりの色が違う | 画面の色と違うとして、全部の刷り直しを求められる | 色校正の有無を決め、許容の範囲を契約書に書く |
| 印刷会社のミス | 受注者が窓口になり、全部の責任を求められる | 受注者の責任の範囲を、印刷会社の責任の範囲に揃え、上限を置く |
| 最小ロットや数量の不足 | 希望の数量が作れない、数が足りないと言われる | 最小ロットと、数量の許容差を、見積書の前提に書く |
| 納品後に不良が見つかる | 数か月後に、不良を理由に再製造を求められる | 通知期間と起算点、不良の定義、ロットごとの許容割合を書く |
| 採用されなかった案 | 発注者が勝手に使う。受注者が使うと文句を言われる | 発注者の使用禁止と、受注者の再提案の条件を書く |
| 製造先の横流し・模倣 | 余剰品や不良品が流通する。似た商品が出る | 不良品・余剰品の処理、デザインの目的外使用の禁止、競合品の製造禁止を書く |
デザインを受ける側にとって、物になるデザインの契約は、「できあがったデザインを渡す」だけでは終わらず、物ができあがるまでの責任の配分を決める契約です。特に、①文言の確定、②校了の定義、③許容の範囲、④不良の通知期間、⑤印刷会社・製造先との責任の揃え方、の五つは、後から決めようとしても、決められません。契約書、見積書、仕様書の三つで、同じ内容を書いておくことが、いちばんの備えです。
よくあるご質問
デザインだけを受けた場合も、印刷の事故の責任を負いますか。
デザインのデータを納品するまでを受けた場合、負うのは、データの内容が仕様に合っていることなどです。印刷会社の工程で起きた事故は、印刷を発注した人と印刷会社との間の問題になります。ただし、入稿用データに不備があって印刷が崩れたときは、受注者の責任になる場合があります。受ける範囲と、入稿の形式を、契約書と見積書で特定しておきます。
校了した後に誤字が見つかりました。刷り直しの費用は誰が負担しますか。
契約で決めておくことです。発注者が確認して校了した内容の誤りは発注者の負担、受注者がデザインの作業の中で入れた誤り(原稿と違う文字に打ち間違えた、など)は受注者の負担、と分けるのが一般的です。発注者が確定した指図の誤りに受注者が気づいていながら告げなかった場合は、受注者の責任が否定されない場合があります(民法636条ただし書)。気づいた点は、記録に残して指摘します。
画面で見た色と、刷り上がりの色が違うと言われました。
画面の色と印刷の色は、仕組みが異なるため、同じにはなりません。事前に、そのことを説明し、契約書に許容の範囲を書いておきます。色を厳密に合わせたいときは、実際の用紙での色校正を行い、その費用を見積書に入れます。色校正を省略して進める場合は、色の違いを理由に争わないことを承諾してもらいます。
グッズの納品後に、不良があると連絡が来ました。いつまで対応が必要ですか。
契約で通知の期間を決めていなければ、民法や商法の規定によることになります。商人どうしの売買では、受領後遅滞なく検査し、不適合を発見したら直ちに通知する必要があります(商法526条)。製造を受ける契約がこれに当たるかは契約の実態によるので、受領後○日以内に検査と通知を行う、と契約書に書き、不良の定義と起算点もあわせて書いておきます。
提案したが採用されなかったデザインを、他の会社に提案してもよいですか。
採用されなかった案の著作権は、特に定めがなければ受注者に残ります。ただし、契約で再提案を制限していることもあります。発注者のブランドや商品名、ロゴ、秘密情報が含まれる部分は再利用できません。一定期間は再提案を控える、同じ業種には提案しない、という条件を付けて、契約で認めておくのが穏当です。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な条項は、制作物の種類、納品の形、報酬の決め方、相手方が事業者か個人かによって異なります。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきたホームページ制作・保守の契約書、デザイン・ロゴ・イラストの制作契約、依頼規約、ライセンス契約、外注先との業務委託契約などを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月21日)。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁 著作権 / 公正取引委員会 / 特許庁