このページの要点
- 利用の範囲を、個人利用・商用利用・二次利用(グッズ化・改変・他の媒体への転用)に分けて、料金と結び付ける。
- 著作権を譲渡せずに利用を許諾するのが一般的。譲渡するなら27条・28条の権利の特掲と、著作者人格権の不行使を検討する。
- ラフ・線画・着彩の段階ごとの確認と修正の回数、キャンセルした場合の段階別の費用を決める。
- インターネットで不特定の人から有償で依頼を受けるなら通信販売に当たり、特定商取引法に基づく表記が必要になる場合がある。
利用の範囲を、料金と結び付ける
「商用利用可」とだけ書いた依頼規約では、Webサイトに載せるだけなのか、グッズにして販売することまで含むのかが分かりません。利用の範囲を段階に分けて、それぞれの料金を決めておきます。
利用の範囲の段階の例
| 利用の範囲 | 個人利用プラン | 商用利用プラン | 二次利用まで含むプラン |
|---|---|---|---|
| SNSのアイコン・ヘッダー(非営利) | ○ | ○ | ○ |
| 企業・店舗のWebサイト・SNSでの使用 | × | ○ | ○ |
| 広告・チラシ・パンフレット | × | ○ | ○ |
| グッズ化して販売 | × | × | ○ |
| トリミング・サイズ変更を超える改変・加工 | × | △ 軽微な加工のみ | ○ |
| 他人への再許諾・転売 | × | × | △ 個別に協議 |
表は一例です。依頼者の業種や使い方に合わせて、段階と料金を設計します。
著作権は、譲渡せずに利用を許諾する形が一般的です(著作権法63条)。許諾の形なら、イラストレーターは作品を実績として公開したり、自分の画集に収録したりできます。依頼者が著作権の譲渡を求める場合は、二次利用まで含む料金を基準に、27条・28条の権利の特掲と著作者人格権の不行使を検討します(著作権の譲渡のページ)。
依頼規約に入れる項目
個人から依頼を受ける場合は、相手が契約書に慣れていないことを前提に、申込みの前に読める依頼規約(コミッションの規約)を用意します。事務所が作成した規約では、すべての依頼に共通するルールを規約にまとめ、金額や納期などの個別の数字は、見積書や確認書に記載して、規約よりそちらが優先する形にしたものがあります。規約を変えなくても、依頼ごとの条件を柔軟に決められるからです。
| 項目 | 決めること |
|---|---|
| 依頼の流れ | 問い合わせ、見積り、申込み、支払、制作開始の順番と、契約が成立する時点 |
| 利用の範囲 | 個人利用・商用利用・二次利用の区分と料金 |
| 権利 | 著作権は制作者に残ること、許諾する利用の範囲、実績公開 |
| 制作の工程 | ラフ・線画・着彩の各段階での確認と、修正の回数 |
| 納期 | 目安の納期、依頼者の確認が遅れた場合の扱い |
| 支払 | 前払いか後払いか、支払方法、着手金 |
| キャンセル | 工程ごとのキャンセルの費用と返金 |
| 禁止事項 | 転売、自作と偽る行為、許諾の範囲を超える利用、AIへの入力の扱い |
| データの保管 | 納品後に元データを保管する期間 |
ラフと修正の回数、確認が来ないとき
イラストの制作は、ラフ(構図)→線画→着彩と進みます。後の工程になるほど、大きな修正は難しくなります。各段階で依頼者の確認を受け、その段階の修正の回数を決めておきます。
- ラフの段階では構図やポーズの修正、線画の段階では細部の修正、着彩の段階では色の調整、と各段階で受け付ける修正の範囲を決めます。
- 確認の段階を過ぎた後に、前の段階に戻る修正(着彩後の構図の変更など)は、追加の費用とします。
- 確認を求めてから一定の期間(たとえば14日)返事がない場合は、確認を受けたものとして次の段階に進めると定めておくと、制作が止まりません。
- 納品した後に初めて出てきた変更の要望は、追加の料金で対応すると決めておきます。
商業イラストは、使用のレイアウトの確認で納品を確定させる
ブランドの商品にイラストを使う契約では、発注者の原案に、修正の回数は無制限、第三者の権利を一切侵害しないことの保証と、紛争の弁護士費用・和解金・営業損失・風評被害まで制作者が負担する、といった条項が並ぶことがあります。依頼者と協議して改訂を重ねた例では、許諾の範囲を製造・販売・広告に必要な範囲と「納品日から当該商品の販売終了日まで」の期間に限り、賠償は直接かつ通常の損害で報酬の総額を上限(故意・重過失を除く)としました。
さらに、修正と納品の流れを、「初稿を受け取ってから一定期間は回数を問わず修正する→発注者が実際に商品に使う予定のレイアウト(縮小・拡大・反転・色の変更など)を作って制作者に確認を求める→制作者が著作権と著作者人格権の観点から使用を許可した時点で納品が成立する」という形に組み替えました。改変を伴う利用で問題になりやすい同一性保持権を、実務の手順の中で処理する方法です。
グッズを作る依頼者は、印刷所や製造業者にデータを渡す必要があります。「許可のない第三者へのデータの提供を禁止」とだけ書くと、依頼者がグッズを作るだけで禁止事項に違反することになりかねません。製造のための外部への提供は認めると、境界を書いておきます。
依頼者が持ち込んだキャラクターを描く場合は、制作物が依頼者のキャラクターをもとにした二次的著作物になり得て、依頼者も権利を持ちます。実績として公開するには、依頼者の許諾が必要になることがあります。第三者のキャラクター(いわゆるファンアート)を持ち込む場合は、公式の二次創作のガイドラインの遵守、依頼者の保証、侵害を主張された場合の費用の負担と、制作者が制作を中止できることを規約に書いておきます。
キャンセルと返金
依頼者の都合でキャンセルされた場合に、どこまで料金を受け取れるかを、工程ごとに決めておきます。依頼者が個人として依頼している場合、解除に伴う違約金のうち、平均的な損害を超える部分は無効です(消費者契約法9条1項1号)。作業の進み具合に応じた段階的な額にしておきます。
| 制作の開始前 | 受領した料金を全額返金(決済手数料を除く) |
|---|---|
| ラフの提出後 | 料金の◯% |
| 線画の提出後 | 料金の◯% |
| 着彩の開始後 | 料金の◯% |
| 納品後 | 返金なし(制作者の責任による不具合を除く) |
制作者の都合で制作を続けられなくなった場合は、受領した料金を返金すると定めておくと、依頼者に安心してもらえます。
「個人での活動」と「企業での利用」の線引き
個人で活動する人に、追加の料金なしで認める用途(SNS、アイコン、配信、収益化、グッズの頒布、告知など)を列挙する規約は、読み手に親切です。ただ、「個人の活動者」と「法人・企業」の線引きがないと、企業の案件を受ける個人、事務所に所属する配信者、所属を移る場面で、どちらの料金なのかが分からなくなります。「収益化」の範囲(企業の案件、広告、商業出版、大量生産のグッズ)の上限や除外も決めておきます。
依頼者による加工は、①軽微な加工は自由(色の補正、トリミング、サイズの変更、文字入れ、縁取り、配信画面やサムネイルへの配置)、②主要な部分の変更は事前に相談、③作品の印象を著しく損なう改変は禁止、の三段階で示すと分かりやすくなります。ただし、「著しく」を誰が判断するのか、どういう手続で判断するのかを書いておかないと、禁止事項との重複や解釈の争いが残ります。
禁止事項(無断の再配布・転売、自作と偽ること、許可のない第三者へのデータの提供、AIへの入力、権利の侵害など)は、違反した場合の効果(許諾の失効、使用の停止、損害賠償、データの削除)と、是正の猶予の手続を書かないと、「求める場合があります」だけでは効きません。軽い違反まで一律に返金しないとする条項は、個人の依頼者との間では争われるおそれがあります。
支払と着手金の決め方
個人からのイラストの依頼は、全額前払いか、着手金と残金に分ける形が多く見られます。制作の枠を予約してもらい、着手まで長く待ってもらう受注では、着手金の性質を決めておくことが大切です。着手金を受け取るなら、何の対価なのか、本制作の料金に充当するのか、キャンセルの場合にどう精算するのかを、見積書と規約で同じ内容にしておきます。申込みと入金の時に送る定型の文面で規約を改めて示し、同意の記録を残しておくと、後で「読んでいない」と言われたときに役立ちます。
納期と、依頼者の都合による延期
イラストの納期は、依頼者の確認が遅れると守れなくなります。納期を「申込みから◯週間」と決めるのではなく、「ラフの確認から◯週間」のように、依頼者の確認を起点にすると、遅れの原因がどちらにあるのかがはっきりします。
依頼者の都合で、制作を一時的に止めてほしいと言われることもあります。延期できる期間の上限と、上限を超えた場合はその時点までの作業で精算して終了すること、再開する場合は制作の予定を組み直すことを決めておきます。制作者の予定の枠を長く空けたままにすることになるので、延期の期間に限りを設けるのが現実的です。
インターネットで依頼を受けるなら、特商法の表記
インターネットで不特定の人から有償の依頼を受け付けることは、特定商取引法の通信販売に当たり得ます。この場合、依頼の受付ページなどに、事業者の氏名、住所、電話番号、価格、支払の時期と方法、提供時期、キャンセルに関する事項などを表示する必要があります(特定商取引法11条)。住所や電話番号は、一定の要件のもとで、請求があれば遅滞なく提供する旨を表示して省略する方法もあります。あわせて、依頼のときに受け取る氏名や連絡先の扱いを示すプライバシーポリシーも置いておきます(独立の書類のページ)。
規約ではキャンセルの精算を作業の進み具合で行うとしながら、特商法の表記には返品・返金に応じないとだけ書く、といった食い違いにも注意します。通信販売で商品を買った人が返品できる制度(特定商取引法15条の3)は商品と特定権利が対象で、イラストの制作のような役務には適用されませんが、申込みの撤回や解除に関する事項は役務でも表示が必要です。規約、表記、依頼の受付ページ、よくある質問のキャンセルの条件をそろえておきます。
依頼規約を短く、読まれるものにする
イラストの依頼者は、長い規約を読むことに慣れていません。依頼規約は、運用の細かな手順を見積書や確認書に分け、紛争のときに必要なルールだけを残すと、読まれる規約になります。規約には、紛争になったときに必要なルール(権利、キャンセル、禁止事項、責任の範囲)を残し、手順や数字は別の書類に分けると、読まれる規約になります。
事務所の改訂例:イラストの依頼規約(依頼者原案からの改訂)
利用の範囲
「商用利用可」では、グッズ化まで許したと受け取られかねません。許諾する範囲を具体的にしました。
確認リスト:依頼規約を公開する前に
- 1利用の範囲が、料金のプランと結び付いているか
- 2著作権が制作者に残ること、許諾の範囲、実績公開が書かれているか
- 3各工程の確認と修正の回数、確認が来ない場合の扱いが決まっているか
- 4工程ごとのキャンセル料と、制作者都合の場合の返金が書かれているか
- 5インターネットで受け付けるなら、特商法の表記とプライバシーポリシーがあるか
- 6数字や手順は見積書・確認書に分け、規約が長くなりすぎていないか
イラストをキャラクターとして商品化する依頼は、ライセンス契約のページで扱っています。
よくあるご質問
イラストの依頼規約には、何を書けばよいですか?
依頼の流れと契約の成立時点、利用の範囲(個人利用・商用利用・二次利用)と料金、著作権の扱い、ラフ・線画・着彩の確認と修正の回数、納期、支払、キャンセル料、禁止事項を書きます。金額や納期などの個別の数字は、見積書や確認書に分けると、規約が読みやすくなります。
イラストの著作権は、依頼者に譲渡すべきですか?
譲渡せずに利用を許諾するのが一般的です。許諾の形なら、イラストレーターは作品を実績として公開したり、画集に収録したりできます。依頼者が譲渡を求める場合は、二次利用まで含む料金を基準に、27条・28条の権利の特掲と著作者人格権の不行使を検討します。
「商用利用可」と書けば十分ですか?
商用利用の中身は依頼者によって違います。Webサイト・SNS・広告への使用と、グッズとしての販売、改変を分けて書き、料金と結び付けておくと、後のトラブルを防げます。
依頼者から返事が来ず、制作が止まっています。
依頼規約に、確認を求めてから一定の期間返事がない場合は確認を受けたものとして次の段階に進める、と定めておくと、制作が止まりません。定めがない場合は、期限を区切って返事を求める連絡をし、記録を残しておきます。
個人でイラストの依頼を受けるのに、特定商取引法に基づく表記は必要ですか?
インターネットで不特定の人から有償の依頼を受け付けるなら、通信販売に当たり得るため、表記が必要になる場合があります。住所や電話番号は、一定の要件のもとで、請求があれば遅滞なく提供する旨を表示して省略する方法もあります。
依頼者のオリジナルキャラクターを描いた絵を、実績に載せてもよいですか?
依頼者のキャラクターをもとにした絵は、依頼者も権利を持つ二次的著作物になり得るため、実績として公開するには依頼者の許諾が必要になることがあります。規約で、公開の可否を申込みの時に選んでもらう形にしておくと安心です。
依頼者がグッズを作るとき、印刷所にデータを渡すのは禁止事項に当たりますか?
規約で「許可のない第三者へのデータの提供を禁止」とだけ書いていると、当たるように読めてしまいます。グッズの製造のための外部への提供は認める、と境界を書いておきます。
商業イラストで、商品に合わせて反転や色の変更をされるのが心配です。
発注者が実際に商品に使うレイアウトを作って確認を求め、制作者が使用を許可した時点で納品が成立する、という流れにすると、改変を伴う利用を事前に確認できます。
依頼者の都合で、制作を長く止めてほしいと言われました。
延期できる期間の上限と、上限を超えた場合はその時点までの作業で精算して終了することを、規約で決めておきます。制作の枠を長く空けたままにしないための定めです。
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