このページの要点
- 制作にAIを使うかどうか、使う場合にどの工程で使うかを、見積りや契約の段階で発注者に示す。
- AIが自動で生成しただけで人の創作的な寄与がない部分は、著作物と認められない場合がある。著作権の譲渡の条項は、権利が生じない部分も想定して書く。
- 発注者から預かった素材や秘密情報をAIサービスに入力するなら、入力してよいか、学習に使われない設定かを確認し、契約で決める。
- 納品物を「AIに入力してはならない」と定める場合は、禁止する目的と行為を具体的に書く。契約の当事者以外には効力が及ばない。
AIを使うなら、使うことと使う工程を示す
制作にAIを使うことは、法律で一律に禁止されているわけではありません。しかし、発注者が「すべて手作業で作られたもの」と期待していた場合、後から使用が分かると、信頼の問題になります。AIを使う可能性があるなら、見積りや契約の段階で、使うかどうかと、どの工程で使うかを示しておくのが誠実です。
| 工程 | AIの使い方の例 | 契約で決めておくこと |
|---|---|---|
| 企画・構成 | サイト構成案やキャッチコピーの候補の作成 | 最終的な案は制作者が選び、調整すること |
| デザイン・イラスト | ラフ案・背景・素材の生成、画像の補正・拡大 | 納品物にAIの生成物を含めるか、含める場合の範囲 |
| コーディング | コードの下書き、エラーの調査 | 第三者の権利を侵害するコードが混入しないよう確認すること |
| 原稿 | 下書き、校正、要約 | 事実の確認と、最終的な文責 |
(生成AIの利用)
1受託者は、本件業務の一部に生成AIを利用することがあります。生成AIを利用する工程は、別紙に定めるとおりとします。
2受託者は、生成AIを利用した場合も、成果物の内容を自ら確認し、仕様に適合することについて本契約に定める責任を負います。
3委託者が生成AIの利用を望まない工程があるときは、契約の締結時に受託者に申し出るものとし、受託者は、その工程において生成AIを利用しません。
AIを使わない約束をする場合は、どの工程で使わないのか(画像の生成だけか、補正やコードも含むのか)を具体的にします。
発注者の側から示される契約書には、生成AIについて次のような条項が入ることがあります。受ける側として、何を約束するのかを確認します。
| 型 | 内容 | 受ける側の確認点 |
|---|---|---|
| 事前開示・承諾型 | 使うサービス・目的・入力する情報の種類・学習に使われるかを開示して承諾を得る。秘密情報や未公開の成果物は個別の承諾なく入力しない。出力は人が確認する | 開示の範囲と、承諾を得る手間が現実的か |
| 開示義務型 | 使った場合は納品時にサービス名・生成した範囲を明示し、プロンプトの履歴や編集の過程を記録して求めに応じ提出する | 記録と提出の負担が大きい。協議で外れた例もある |
| 入力禁止型 | 承諾なく、AIサービスで秘密性のある業務情報を扱わない | 禁止される情報の範囲が明確か |
| 設定限定型 | 秘密情報は、学習など目的外に使われない契約条件・設定の下でのみ入力する | 使っているサービスの設定で対応できるか |
反対に、AIを使う側として契約書を作るなら、使えるAIサービスは合意したものに限ること、個人データは学習に使われない設定のサービスにだけ入力すること、ID・パスワード・APIキーは入力しないこと、AIの出力には誤りや第三者の権利の侵害の可能性があること、AIサービスの停止や料金の改定による影響、AIサービスの利用料を報酬に含めるかどうか、を書いておきます。
AIで生成した部分の著作権
著作権法が保護する著作物は、「思想又は感情を創作的に表現したもの」です(著作権法2条1項1号)。AIが自動で生成しただけで、人の創作的な寄与がない部分は、著作物と認められない場合があります。この場合、その部分にはそもそも著作権が生じないので、契約で「著作権を発注者に譲渡する」と書いても、移すべき権利がないことになります。
納品物の中身と、著作権の考え方
| 納品物の部分 | 著作権 | 契約での手当て |
|---|---|---|
| 制作者が手で描いた・作った部分 | ○ 生じる | 譲渡又は利用許諾の対象として定める |
| AIの生成物を、制作者が創作的に加工・選択・配置した部分 | △ 寄与の程度による | 権利が生じる場合と生じない場合の両方を想定して書く |
| AIが自動で生成しただけの部分 | × 生じない場合がある | 権利の有無にかかわらず、発注者が自由に利用できること、制作者が権利を主張しないことを定める |
著作物に当たるかどうかは、最終的には個別に判断されます。
そこで、AIを使う可能性がある制作の契約では、著作権の条項に「成果物について著作権が生じる場合は、報酬の支払時に委託者に移転する」と書いたうえで、「著作権が生じない部分も含め、委託者は成果物を自由に利用でき、受託者はこれについて権利を主張しない」という一文を加えます。著作権の譲渡の条項全体の書き方は著作権の譲渡のページで扱っています。
| AIの利用 | 本件では、背景素材の一部の作成と、画像の拡大・補正に画像生成AIを利用します。キャラクター・ロゴなど主要な部分には利用しません |
|---|---|
| 入力する情報 | お預かりした写真・ロゴ・原稿は、学習に利用されない設定のサービスにのみ入力します |
| 確認 | AIで作成した部分も、制作者が内容を確認・調整したうえで納品します |
| 権利 | AIで作成しただけの部分には著作権が生じない場合があります。その部分も含め、納品物はご自由にお使いいただけます |
| ご希望 | AIを利用しない制作をご希望の場合は、ご依頼の時にお申し付けください |
この内容を見積書に添え、契約書の条項でも同じ内容を定めると、説明と約束がそろいます。
発注者の素材や秘密情報をAIに入力するとき
発注者から預かった写真、ロゴ、原稿、顧客の情報を、AIサービスに入力して作業することがあります。AIサービスによっては、入力した内容がサービスの改善や学習に使われる設定になっています。秘密保持の約束をしている情報を、学習に使われる設定のAIに入力すると、秘密保持の義務に反するおそれがあります。
確認リスト:素材をAIに入力する前に
- 1入力しようとしている素材が、秘密保持の対象か
- 2使うAIサービスで、入力した内容が学習に使われない設定になっているか
- 3個人情報(顧客の氏名、写真に写った人物など)が含まれていないか
- 4発注者が、AIへの入力を承諾しているか(必要なら契約で承諾を得る)
- 5AIサービスの利用規約で、生成物の商用利用が認められているか
事務所が作成した、業務を外部に委託する契約書では、AIへの入力について、入力してよい情報、学習に使われない設定に限って入力してよい情報、入力してはいけない情報の三つに分ける条項を置いた例があります。営業上の秘密や個人情報は、入力の対象から外すか、伏せ字にするなどの加工をしてから入力すると定めています。
納品物を「AIに入力してはならない」と定める場合
イラストやデザインを納品する制作者の側から、納品物を生成AIに入力することを禁止したいという相談も増えています。このような条項を置くこと自体はできますが、書き方と限界を理解しておく必要があります。
- 禁止する目的と行為を具体的にする:「AIに入力してはならない」とだけ書くと、画像編集ソフトの自動補正や背景の除去のような日常的な機能まで禁止しているのか、学習目的だけを禁止しているのかが分かりません。学習、生成のための加工、解析のための読み込みなど、禁止したい行為を書き分けます。
- ほかの条項と衝突させない:同じ規約に「軽微な加工は可」という条項があると、AIを使った加工が許されるのかどうかで解釈が分かれます。
- 契約は当事者にしか効力が及ばない:規約や契約書は、それに同意した相手にしか効力がありません。契約前に見せたラフ、インターネットに公開した作品、流出した後の第三者には及びません。
- 法律で認められた利用との関係:著作権法は、情報解析のように著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用を、一定の範囲で認めています(著作権法30条の4)。契約でこうした利用まで制限できるかについては、考え方が分かれています。
事務所の改訂例:AI入力禁止の条項(依頼者原案からの改訂)
禁止の範囲
目的を問わない一律の禁止は、日常的な画像の処理まで含んでしまい、軽微な加工を認める別の条項とも衝突します。禁止したい行為を具体的にしました。
制作者側の方針
依頼者に禁止を求める以上、制作者自身がAIを使うかどうかも示しておくと、依頼者の期待とのずれを防げます。
イラストの依頼規約全体の作り方はイラストレーターの契約書のページで扱っています。
AIへの入力を、目的で四つに分けて考える
事務所が規約のレビューで用いた整理では、納品物をAIに入力する行為を、目的によって四つに分けて評価しました。
AIへの入力の目的と、守り方
| 入力の目的 | 著作権法での扱いの考え方 | 契約で決めること |
|---|---|---|
| 学習(追加の学習を含む) | △ 情報解析として認められる場合があるが、特定の表現を出力させる目的の学習は別に考えられる | 禁止するなら、学習を明示して禁止する |
| 似たものの生成・加工 | × 似たものを生成させる目的の入力は、権利の制限の対象外とされ、似ていれば侵害になり得る | 禁止の対象として明記する |
| 解析・評価・資料作成のための読み込み | ○ 権利の制限の対象になり得る(著作権法だけでは止められない) | 契約でしか止められない領域。制限の効力には考え方が分かれる |
| 日常の機能(写真アプリの自動分類、翻訳、読み上げなど) | - | 禁止の対象から外す |
文化庁「AIと著作権に関する考え方について」などの公的な資料の整理をもとにした目安です。
AIを使う側として契約を結ぶ場合は、生成物の権利の条項に「権利が発生する限度において」効力を生じると書き、AIの出力には著作物と認められない部分があること、同じか似た表現がほかの人にも出力され得ることを、発注者に了承してもらう書き方があります。依頼者の情報に個人情報が含まれ、海外の事業者が運営するAIサービスを使う場合は、外国にある第三者への提供に当たる場合があります。その場合は、所在国の名称、その国の個人情報の保護に関する制度、提供先が講じる措置などの情報を示したうえで承諾を得るか、提供先の体制を確認します(個人情報保護法28条)。
保証の範囲と、AIサービスの利用規約
AIの生成物には、既存の作品に似たものが含まれる可能性があります。制作者が「第三者の権利を一切侵害しないことを保証する」と約束していると、AIの生成物に起因する問題まで、制作者が全面的に責任を負うことになりかねません。保証の範囲は、制作者が知り得た範囲や、通常の確認を行った範囲に限定する書き方を検討します。あわせて、使うAIサービスの利用規約で、生成物の商用利用が認められているか、生成物について権利を主張しないとされているかを確認しておきます。
外注先にAIの使用を認めるかどうかは、外注先との契約にも入れておきます(外注・フリーランス法のページ)。
よくあるご質問
制作に生成AIを使ったことを、発注者に伝える必要はありますか?
法律で一律に開示が義務づけられているわけではありません。ただし、発注者が手作業での制作を期待している場合や、納品物の著作権の扱いに影響する場合は、契約の段階で使うかどうかと使う工程を示しておくほうが、後のトラブルを防げます。
AIで作った画像の著作権を、発注者に譲渡できますか?
AIが自動で生成しただけで人の創作的な寄与がない部分は、著作物と認められず、著作権が生じない場合があります。その場合は譲渡する権利がないので、権利の有無にかかわらず発注者が自由に利用でき、制作者が権利を主張しないことを契約で定めておきます。
発注者から預かった素材を、AIで加工してもよいですか?
秘密保持の対象かどうか、AIサービスで学習に使われない設定になっているか、個人情報が含まれていないかを確認します。必要であれば、発注者からAIへの入力の承諾を得ておきます。
納品したイラストを「AIに学習させないで」と規約に書けば、守ってもらえますか?
規約や契約に同意した相手との関係では、約束として効力を持ちます。ただし、契約していない第三者には効力が及ばず、禁止する行為を具体的に書かないと、どこまで禁止したのか解釈が分かれます。
AIの生成物が他人の作品に似ていた場合、制作者は責任を負いますか?
契約で第三者の権利を侵害しないことを保証していれば、その範囲で責任を問われる可能性があります。保証の範囲を、通常の確認を行った範囲などに限定する書き方を検討し、使うAIサービスの利用規約もあわせて確認しておきます。
発注者から、AIの利用の記録をすべて提出するよう求められました。
プロンプトの履歴や編集の過程の記録と提出は、制作者にとって負担の大きい条項です。どの範囲の記録なら現実的かを伝えて交渉し、協議で外れた例もあります。
「AIへの入力禁止」は、どこまで書けば守ってもらえますか?
学習、似たものの生成、解析のための読み込みなど、目的で特定して禁止し、写真アプリの自動分類や翻訳といった日常の機能は除外します。「目的を問わず一切禁止」は守れない規定になり、条項全体の信頼を損ないます。
AIサービスの利用料は、報酬に含めるべきですか?
含めるかどうかを契約で決めておきます。発注者の求めで特定の有料サービスを使う場合は、利用料を発注者の負担とする定めにしておくと、後で争いになりません。
海外のAIサービスに、依頼者の個人情報を入力してもよいですか?
海外の事業者が運営するサービスに個人情報を入力すると、外国にある第三者への提供の問題が生じることがあります。個人情報は入力の対象から外すか、所在国の名称・その国の制度・提供先の措置などの情報を示したうえで依頼者の承諾を得ておきます。
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