このページの要点
- モデルは原画の二次的著作物と評価される場合があり、原画の作者にも権利が及ぶ(著作権法2条1項11号、28条)。依頼者が両者と直接契約する形か、モデラーが窓口になる形かを決める。
- 動作確認の範囲は確認書に書き、確認書にない部分は対象外とする。環境やアプリの仕様変更による不具合は、責めに帰すべき事由がない限り責任を負わないと書く。
- 事前着手金は、事前対応という別の仕事の対価として、単価と上限を見積書に示す。個人の依頼者では、平均的な損害を超える部分が無効になり得る(消費者契約法9条1項1号)。
- 完成済みのモデルの販売では、利用者の限定、転売の禁止、引退・再デビューの扱い、返品の条件を書く。ネットで個人に売るなら特商法の表示(11条)も必要。
Live2Dのモデルは、外部のイラストレーターが描いた原画を、モデラーがパーツに分けて動くように仕立てるのが一般的です。絵とモデルという二つの制作物が重なり、さらにそれを使う人(配信者・活動者)の活動が続くため、通常のイラスト依頼の規約だけでは決めきれない点が出てきます。結論から言うと、依頼規約には次の七つを入れておくと、有事に慌てずに済みます。
- 原画の作者とモデルの制作者の権利を分けて整理し、誰と誰が契約するのかを決める。
- 動作確認の範囲と期間を、規約ではなく確認書に書く。確認書に載っていない部分は対象外とする。
- 依頼者の機器・ソフト・トラッキング環境や、アプリ側の仕様変更で生じた不具合は、受注者の責めに帰すべき事由がない限り責任を負わないと書く。
- 編集データは原則として渡さない。渡すなら条件と追加料金を決める。元データの保管期間も決める。
- 事前着手金は、本制作の前金ではなく、事前対応という別の仕事の対価として組み立て、単価と上限を見積書に載せる。
- 完成済みのモデルを売る場合は、利用者を一人に限る、転売や貸与を禁じる、引退や再デビューの扱いを定める。
- 個人の活動者と、企業やマネジメント会社に所属する活動者の区分を決め、リピート向けの特典や、制作過程の公開と引き換えの割引を設けるときは、対象者と取消しの条件を書く。
以下、それぞれを順に説明します。一般のイラスト依頼規約の作り方はイラストの依頼規約と契約書で、著作権の譲渡と許諾の考え方は著作権の譲渡と利用許諾で扱っています。このページでは、モデル制作に特有の点に絞ります。
原画とモデルは、別々の著作物の層になる
絵として描かれたキャラクターは、絵画その他の美術の著作物です(著作権法10条1項4号)。モデラーが、その絵をパーツごとに切り分け、動かせる形に変えて作ったモデルは、原画を「変形」「翻案」して作った二次的著作物と評価される場合があります(同法2条1項11号、27条)。二次的著作物については、原著作物の著作者が、その利用に関して、二次的著作物の著作者と同じ種類の権利を専有します(同法28条)。つまり、モデルを配信で動かす、動画にする、グッズにするといった利用には、モデルの制作者だけでなく、原画の作者の権利も関わってきます。
ここから、実務上の大きな分かれ道が生まれます。一つは、依頼者が原画の作者とモデラーのそれぞれと直接契約する形です。契約は二本になりますが、誰がどこまで許諾したのかが、それぞれの契約書で明確になります。もう一つは、モデラーが窓口になって、原画の作者に外注する形です。依頼者にとっては一本で済みますが、モデラーは、原画の作者から、依頼者の利用に必要な範囲の許諾を受けておく必要があります。利用権は、著作権者の承諾を得なければ譲渡できないとされています(同法63条3項)。外部の作者から受けた許諾を、依頼者に引き継げる内容になっているかを、先に確かめておきます。
モデルの使い方ごとの、許諾の整理(一般的な例)
| 使い方 | 通常の依頼での扱い | 決めておくこと |
|---|---|---|
| 配信・動画・SNSでの通常の利用 | ○ 許諾する | 収益化の範囲(企業案件・広告・商業出版)の線引きを書く |
| グッズの制作・販売 | △ 別途の条件 | 原画の作者が定める条件に従うのか、別の見積りか |
| モデルの改造・加工 | △ 承諾制 | 軽微な調整と、印象を大きく変える改変を区別する |
| 第三者への譲渡・貸与・共有 | × 認めない | 違反したときは許諾の失効と使用の停止 |
| 引退した後の利用 | × 停止する | 引退前に作った配信や動画のアーカイブは残せる、とするかどうか |
| 所属先の企業・マネジメント会社での利用 | △ 区分を決める | 個人の活動者の料金と、法人が使う場合の料金を分ける |
○=規約で許諾する、△=条件や別の取り決めが要る、×=認めない。実際の区分は、制作物と取引の形に合わせて決めます。
どちらの形でも、依頼者に渡る権利は「利用の許諾」にとどまり、モデルのデータや原画の著作権そのものが依頼者に移るわけではない、という整理が多く見られます。著作権を譲渡する形にする場合は、翻案権等(27条)と二次的著作物に関する権利(28条)を譲渡の目的として特に書かないと、譲渡した人に残ったものと推定されます(同法61条2項)。詳しくは著作権の譲渡のページのとおりです。
依頼者がすでに自分のキャラクターを持っていて、その絵をもとにモデルを作る場合は、原画の作者が依頼者自身であることもあります。第三者のキャラクター(二次創作)を持ち込む場合は、持ち込む人が許可を得ていることを表明してもらい、権利の侵害を主張されたときの費用の負担と、制作を中止できる権利を書いておきます。また、生成AIで作った絵を持ち込む場合の申告も、規約に入れておくと後で役立ちます(生成AIと制作の契約参照)。
申込みから納品まで、書類ごとの役割を分ける
モデル制作は、見積りから納品まで、工程が長く、途中で決めることが多い仕事です。規約に数値や運用の細目まで書き込むと、料金や手順を変えるたびに規約の変更の手続が必要になります。規約は共通のルールにとどめ、料金・期間・修正の回数・動作確認の範囲といった個別の条件は、見積書と確認書に出す、という分担が扱いやすくなります。規約の冒頭に「個別の条件と規約が異なるときは、個別の条件が優先する」と書いておきます。
モデル制作の流れと、書類・決めること
ヒヤリング
キャラクターの内容、動かしたい範囲、使い方(配信・動画・グッズ)、個人か法人か。原画を誰が描くか。
見積書
制作の内容、料金、事前対応の単価と事前着手金の上限、追加の差分やオプションの料金。
確認書
動作確認の範囲、制作の枠(期間)、編集データの提供の有無、支払の期限。
事前対応
パーツ分けの確認、技術的な助言、外部の作者との調整、日程の調整。ここまでが事前着手金の対象。
本制作と動作確認
モデルの制作。依頼者の環境での動作確認と、確認書の範囲での修正。
納品と保管
データの引渡し。納品後のデータの保管期間と、不具合の対応期間。
| 制作の内容 | モデル一体の制作(動かす範囲:上半身、表情、髪、小物) |
|---|---|
| 動作確認の範囲 | 確認書に載せた動き・パラメータに限る。載っていない差分は対象外 |
| 動作確認の環境 | 依頼者が使うトラッキングの方法とソフトの種類・版を記載 |
| 追加の差分・オプション | 見積書で別途の料金を示して対応 |
| 制作の枠 | 制作期間として確認書に記載する期間。変更は受注者の予定の範囲で受ける |
| 編集データ | 原則として提供しない。提供する場合は見積書の追加料金 |
| 料金と支払 | 総額と内訳、税込か税別か、事前着手金と残金の額・期限 |
確認書は、規約と別に交わす書面です。メールやフォームの記録でも構いませんが、日付と内容が残る形にします。
規約に同意してもらった記録を残すことも大切です。規約は、定型約款として、契約の内容にする旨を合意した場合や、あらかじめ表示していた場合に契約の内容になります(民法548条の2第1項)。申込みフォームのチェック欄や、入金前に送る定型の案内文での再提示で、同意の記録を残します。規約を変更するときは、変更の効力が生じる時期を定め、変更の内容と時期を周知します(同法548条の4第2項)。依頼者に不利益となる大きな変更は、すでに成立している依頼には及ばないようにするか、個別に通知する、という運用が穏当です。個人から依頼を受ける場合の書類一式は独立するときにそろえる書類にまとめています。
動作確認と不具合の範囲を決める
モデルは、完成させて引き渡す仕事なので、請負として整理されます(民法632条)。引き渡したものが契約の内容に適合しないときは、依頼者は、追完(修補)、報酬の減額、損害賠償、解除を求めることができます(同法559条、562条〜564条)。請負では、不適合を知った時から1年以内にその旨を通知しないと、これらを求められなくなります(同法637条1項)。
ただし、モデルの「不具合」は、受注者の作り方に原因があるとは限りません。トラッキングに使う機器やソフトの種類、依頼者のパソコンの性能、アプリのバージョンアップ、外部サービスの仕様の変更によっても、動きは変わります。そこで、何を確認して納品とするのか(動作確認の範囲)を、先に確認書で決めておきます。範囲に入っていない部分、たとえば確認書に載せていない表情の差分は、動作確認の対象外とし、追加の差分や仕様の変更は、見積書で別に料金を示して対応する、と書きます。依頼者が示した指示や参考資料に原因がある不適合については、民法636条が、注文者の供した材料の性質や与えた指図によって生じた不適合を理由とする請求を制限しています(請負人が不適当と知りながら告げなかったときを除く)。
条文の書き方の例:動作確認の範囲と、対象外の事由
1動作確認の範囲は、確認書に記載する。確認書に記載のない動き・差分・設定は、動作確認の対象外とする。
2次の事由に起因する不具合又は遅延について、受注者は、その責めに帰すべき事由がない限り、責任を負わない。(1)依頼者の機器、ソフトウェア、トラッキングの環境その他の環境 (2)外部のサービス・アプリの仕様の変更又は障害 (3)依頼者の指示又は依頼者が提供した資料
3前項の事由が一定の期間以上続いたときは、依頼者は、利用契約を解除することができる。この場合の返金は、第○条(キャンセル)に準じて行う。
「責めに帰すべき事由がない限り」という限定を付けると、全部免責の条項よりも、個人の依頼者との間で有効と認められやすくなります。
免責の書き方には注意が要ります。依頼者が事業のためでなく個人として契約する場合は、消費者契約法が適用されます(同法2条1項)。債務不履行による損害賠償責任の全部を免除する条項は無効です(同法8条1項1号)。責任に上限を設ける場合は、軽過失の場合に限ることを条項の中で明らかにしておかないと、無効になるおそれがあります(同法8条3項)。故意または重大な過失の場合は、上限をかけない書き方にします(同条1項2号)。
書き方の例(一般的な例) 動作確認と責任の上限
動作確認の範囲
「問題がない」の範囲が広すぎて、後から確認書にない部分の不具合を言われやすくなります。
責任の上限
全部免責は、個人の依頼者との契約では無効になるおそれがあります。軽過失に限ることを明記します。
環境に起因する不具合
原因が環境にあるのか制作にあるのかで争う前に、役割を決めておきます。
動作確認の期間と方法も書きます。依頼者に、実際に使う環境で動かして確認してもらい、一定の期間内に通知がなければ確認済みとする、という定めは、事業者との間では有効に機能しやすい条項です。個人の依頼者に対しては、何もしなかったことを承諾とみなす条項が、消費者契約法10条で争われる場合があります(同条は、消費者の権利を制限し、または義務を加重する条項で、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものを無効としています)。期間を短くしすぎない、確認を促す連絡を送る、といった運用を添えます。不具合の対応期間は、民法637条の1年に合わせる設計もあれば、動作確認の期間を区切ったうえで、その後の不具合は別に費用を示す設計もあります。どちらにするかを、保管期間(後述)と食い違わないように決めておきます。
編集データを渡すか、元データをいつまで保管するか
モデルの納品物は、通常、配信ソフトで動かすために書き出したデータです。モデルを編集するための元の形式のデータ(編集データ)は、パーツの構造や動きの設定がそのまま入っているため、制作のノウハウそのものです。渡すと、改造や他人への複製が容易になります。そのため、編集データは原則として提供しない、提供する場合は見積書に定める追加料金を支払ってもらう、と書く規約が多く見られます。提供する場合は、改造してよい範囲、再配布や第三者への提供の禁止、提供後の不具合の対応は含まないことを、あわせて書いておきます。
制作者が持っている汎用的な部品(共通の動きの設定、ひな形のパーツ構造など)は、受注者に残す資産として整理し、依頼者には、モデルを使うために必要な範囲で許諾する、と分けておきます。この考え方は著作権の譲渡のページの「制作者の既存の素材」の項目と同じです。
もう一つ、決めておきたいのが元データの保管です。納品が終わったあと、数年してから「データを失くしたので再送してほしい」と依頼されることがあります。納品の完了後は、継続的な保管の義務を負わないと書く方法と、一定の期間は保管し、以後は通知なく削除する、と書く方法があります。後者を選ぶ場合は、保管期間中の再送が無償か有償か、期間経過後に再提供する場合の費用を決めておきます。保管期間中にデータが消えた場合に、責任を負わない旨も添えます。
確認リスト:データの扱いで確認すること
- 1納品物の範囲(書き出したデータのみか、パーツ分けのイラストも渡すのか)を確認書に書いたか。
- 2編集データを渡さないことを、見積書の段階で伝えたか。渡す場合の追加料金と条件を決めたか。
- 3原画の作者の素材(パーツ分けのイラスト)を、依頼者に渡してよいかを、作者との間で確認したか。
- 4保管期間と、不具合の対応期間が食い違っていないか。
- 5再送の依頼を受けたときの費用と手順(本人確認を含む)を決めたか。
事前着手金を、事前対応の対価として組み立てる
モデルの制作は、枠を押さえてから実際に着手するまでに間が空くことがあります。その間に、パーツ分けしたイラストの確認、技術的な助言や指導、外部の作者との調整、日程の調整といった準備が行われます。この準備に対して受け取るお金を「事前着手金」と呼ぶ場合、その性質をどう組み立てるかで、有効性の見通しが変わります。
| 型 | 性質 | 返さない旨の定めの評価 | 必要になる準備 |
|---|---|---|---|
| 制作費の内金 | 本制作の料金の前払い | 返還しない旨の定めは、解除に伴う違約金を定める条項として審査される可能性が高い | 解除の時期ごとの平均的な損害の説明 |
| 事前対応の対価 | 準備という別の仕事の報酬 | 実際に提供した作業の対価であれば、報酬の定めとして整理できる余地がある | 作業の単価、額の上限、実際の作業の記録、本制作に進んだ場合の充当 |
消費者契約では、解除に伴う損害賠償の額を予定し、または違約金を定める条項は、同種の契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える部分が無効です(消費者契約法9条1項1号)。また、事業者は、消費者から求められたときは、その算定根拠の概要を説明するよう努めなければなりません(同条2項)。名前を「着手金」とするか「事前対応費」とするかではなく、実際に何の対価として働くのかが問われますから、条項の名目に頼らず、中身を整えておくのが安全です。
事前対応の対価として構成するときの要点は、次のとおりです。見積書に、事前対応の作業の単価と、事前着手金の額(上限)を書きます。通常の確認と調整を超える指導が必要になり、追加の費用が見込まれるときは、事前に相談し、依頼者が承諾した後に対応する、とします。本制作に進んだときは、事前着手金を料金に充当します。本制作の前にキャンセルされたときの精算額は、実施済みの事前対応に実際に要した作業の対価(単価によります)と実費の合計とし、事前着手金の額を超えない、と書きます。作業の記録(いつ、何を、どれだけ行ったか)を残しておけば、精算額の説明ができます。
条文の書き方の例:事前対応と事前着手金
1モデル制作では、本制作の着手の前に、パーツ分けしたイラストの確認、技術的な助言、外部の作者との調整、日程の調整その他の準備(事前対応)を行うことがある。
2事前着手金は、事前対応の対価である。受注者は、見積書に、事前対応の作業の単価と、事前着手金の額(上限)を記載する。追加の費用が見込まれるときは、事前に相談し、依頼者の承諾を得て対応する。
3事前着手金は、本制作に進んだときは、料金に充当する。本制作の着手前にキャンセルされたときの精算額は、実施済みの事前対応の対価(単価による。)と実費の合計とし、事前着手金の額を超えない。
キャンセルの精算の一般的な考え方は制作のトラブルとキャンセルのページにまとめています。事前対応と本制作の作業の区分は、精算のときに迷わないよう、見積書と作業の記録で分けておきます。
完成済みのモデルを売る:既製のデータ、キャラクター付きモデルの募集
受注制作のほかに、あらかじめ作ったモデルを売る形があります。キャラクターの絵柄まで決まったモデルを、一人の活動者に購入してもらう形もこれに当たります。受注制作と違い、依頼者の注文に合わせて作るのではないので、売る前に決めておく条件が増えます。
- 利用者:購入した一人に限る(限定の一点もの)か、購入した人が各自の活動で使える汎用のものか。限定の場合は、購入者以外の使用を認めない。
- 禁止事項:転売、譲渡、貸与、他の人との共有。利用権は著作権者の承諾がなければ譲渡できない(著作権法63条3項)という原則を、契約でも確認する形で書く。
- 収益:活動で得た収益は購入者のものとする。一方、受注者は、宣伝や配信など活動の支援を行う義務を負わず、コンサルティングや所属の管理も行わない、と明記する。
- 権利の帰属:モデルデータの著作権は制作者に、イラストの著作権は担当した外部の作者に、それぞれ帰属し、購入者には許諾の範囲内の利用を認める。グッズ化など許諾の範囲を超える利用の可否は、外部の作者が示す条件による。
- 販売の条件の置き場所:仲介サービスの販売ページか、募集要項か。規約と条件が異なるときは、どちらが優先するか。
活動の途中で起こることの手当ても要ります。活動を休む期間、いったん引退して再び活動を始める場合、そして引退です。利用者が同じ人である限り、休止の期間中や再デビューの後も利用を認める、引退したときは再デビューする場合を除き、その時以降は利用を停止する、引退前に作った配信や動画のアーカイブは残してよいが、その場合に返金はしない、という定め方があります。問題は「引退」の意味です。活動終了の意思を示したとき、一定の期間活動がないとき、などを定義しないと、再デビューか引退かで争いになります。活動者が別の人に交代する場合(いわゆる中の人の交代)は、利用者が同一かどうかの問題として、承諾制にしておきます。
返品・返金は、ダウンロードできる状態になった後は応じない、ただしデータの不備(破損、欠損、誤送信など)があるときは無償で修正または再送し、困難なときは返金する、購入者の環境に起因する不具合は不備に当たらない、という整理が分かりやすいでしょう。仲介サービスを通じて売るときは、そのサービスの規約が優先する旨も書きます。インターネットで個人に売る場合は、特定商取引法の通信販売の広告に当たり、販売価格、代金の支払の時期・方法、引渡時期、申込みの撤回または解除に関する事項などを表示する必要があります(同法11条)。申込みを受ける最終の画面にも、分量、対価、支払の時期などの表示が求められます(同法12条の6)。法定の申込みの撤回等の制度(同法15条の3)は、商品と特定権利が対象で、役務は含まれません。データ販売を商品の販売と見るか役務の提供と見るかで扱いが変わり得るため、返品の可否と条件を、広告に分かりやすく表示しておくことが大切です。なお、営業のために契約する相手には、通信販売の規定は適用されません(同法26条1項1号)。
個人の活動者と、企業・マネジメント会社に所属する活動者:特典と公開の条件も
同じモデルでも、個人の活動者が自分の活動に使う場合と、企業やマネジメント会社に所属する人が使う場合とでは、料金も許諾の範囲も異なるのが通常です。料金の区分を、個人の利用・商用の利用・買い切りのように分け、商用は別の見積りにする書き方が分かりやすくなります。線引きがないと、企業の案件を受ける個人、マネジメント会社に所属する活動者、所属先が変わる場面で、どちらの料金なのかが決まりません。「個人事業」として活動する人は、事業のために契約する場合は消費者契約法上の事業者に当たり(同法2条2項)、事業者でない個人の契約とは扱いが変わります。
費用を所属先の会社が払い、実際に使うのは所属する活動者、というのもよくある形です。このときは、契約の当事者(誰に許諾するのか)、利用者の範囲、所属先が変わったときに許諾が引き継がれるのか、を決めておきます。利用権は著作権者の承諾なく譲渡できませんから、所属の変更に伴う承継は、あらかじめ承諾の条件を書いておくか、変更の都度、承諾を取るかのどちらかになります。
リピート向けの特典と、制作過程の公開の条件
依頼を重ねた人への割引や特典を設けることがあります。規約には制度の骨格だけを書き、特典の内容や上限、他の割引との併用といった細目は、告知や見積書で示す個別の条件に出します。規約に書いておきたいのは、特典を受ける人は誰か(料金を払った人か、制作物を実際に使う人か)、依頼がキャンセルまたは解除されたときの取消し、金銭に換えられず譲渡もできないこと、条件の変更や制度の終了のときの経過措置です。
ラフや制作の様子を公開してよい、という条件で料金を割り引くこともあります。この場合は、後から依頼者が非公開を希望したときの扱い(割引を取り消すのか、追加料金で応じるのか)を、割引をする時点で見積書に書いておきます。制作実績としての公開は、納品後の一定期間内に認める、公開できない事情は見積書を承諾する前に申し出てもらう、依頼者の活動名や依頼のやり取りは同意なく載せない、という書き方が穏当です。実績公開の一般論は著作権の譲渡のページにあります。
起きがちなこと:場面ごとの見直し
| 場面 | 起きがちなこと | 備え |
|---|---|---|
| 原画の作者が別にいる | モデラーが許諾を受けていない用途(グッズなど)で使われる | 許諾の範囲を原画の作者と確認し、依頼者への案内に同じ範囲を書く |
| 納品後に動かない | 依頼者の環境やアプリの更新が原因なのに、制作の不具合と言われる | 確認書で動作確認の範囲と環境を特定し、環境起因の事由を免責する |
| 全額前払いのまま着手が遅れる | 待たされた依頼者が、着手前にキャンセルして全額返金を求める | 事前対応の単価と上限を見積書に載せ、精算の式を書く |
| 編集データを求められる | 断り方が決まっておらず、納品後に揉める | 見積書の段階で原則提供しないと伝え、提供の条件と追加料金を決める |
| 購入者が引退・再デビューする | 引退の時期が曖昧で、アーカイブや返金の扱いで争う | 引退の定義、再デビューの扱い、アーカイブの扱いを書く |
| 所属の変更 | 個人で購入したモデルを所属先の会社が使い続ける | 個人用と法人用の区分、承継の承諾の条件を書く |
ここまでの内容を、見積書・確認書・規約・販売ページに分けて書き、互いに矛盾しないようにしておくことが、いちばんの備えです。特に、キャンセルの条件は、規約、販売ページ、通信販売の表示、FAQで同じ内容に統一します。表示の内容が分散していると、依頼者から、見たページに書いてあったことを理由に争われます。外注のクリエイターと分担して制作する場合は外注とフリーランス法も確認してください。
よくあるご質問
原画を描く人とモデルを作る人が別のとき、契約は何本になりますか。
依頼者がそれぞれと直接契約する形なら二本になります。モデラーが窓口になって原画の作者に外注する形なら、依頼者との契約は一本ですが、モデラーは原画の作者から、依頼者の利用に必要な範囲の許諾を受け、依頼者に引き継げる内容にしておく必要があります。モデルは原画の二次的著作物と評価される場合があり、原画の作者にも二次的著作物の利用に関する権利があるためです(著作権法2条1項11号、28条)。
納品後に「動かない」と言われたとき、無償で直す義務がありますか。
請負として引き渡したモデルが契約の内容に適合しなければ、追完などを求められます(民法559条、562条〜564条、637条1項)。ただし、動作確認の範囲は確認書で決められますし、依頼者の機器・ソフト・トラッキング環境や、アプリ側の仕様変更が原因の不具合は、受注者の責めに帰すべき事由がない限り責任を負わない、と書いておけます。確認書に載っていない差分は、対象外として別の見積りになります。
事前着手金は、キャンセルされても返さなくてよいのですか。
事前対応という別の仕事の対価として、見積書に単価と上限を示し、実際に行った作業の記録がある場合は、その対価を精算して差し引くという組み立てが考えられます。ただし、個人の依頼者に対しては、実際に提供した対価を超える部分は、平均的な損害を超えるものとして無効になる余地があります(消費者契約法9条1項1号)。名目でなく、中身の整った書き方が必要です。
完成済みのモデルを購入した人が引退したら、どう扱いますか。
引退の定義を決めたうえで、引退した時以降は利用を停止する、再デビューする場合は同じ人である限り利用を認める、引退前の配信や動画のアーカイブは残してよいが返金はしない、という定め方があります。定義がないと、活動を休んでいるだけなのか引退なのかで争いになりますので、活動終了の意思の表示や、一定期間の無活動といった基準を書いておきます。
編集データを渡さないという運用は、問題になりませんか。
納品物の範囲は契約で決めるものですから、見積書と確認書で「書き出したデータのみを納品し、編集データは原則として提供しない」と明確にしていれば、直ちに問題になるものではありません。提供する場合は、追加料金、改造してよい範囲、再配布の禁止を決めます。後から求められて揉めないよう、見積りの段階で伝えておくのが大切です。
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