このページの要点
- 契約は、申込みに対して承諾をしたときに成立し、法令に特別の定めがある場合を除き、書面は必要ない(民法522条)。メールやチャットのやり取りでも成立し得る。
- 見積書には、金額だけでなく、制作範囲、前提条件(原稿・素材の提供時期など)、修正の回数、有効期限、範囲外の作業の単価を書く。
- 仕様書とワイヤーフレームを契約の一部(別紙)として位置づけ、確定の手順と、確定後の変更を追加の費用とする旨を決める。
- 発注が決まる前の提案・デザイン案の作成は、無償の範囲か、費用を請求するかを、着手の前に書面で決めておく。
契約は、いつ成立するか
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(申込み)に対して、相手方が承諾をしたときに成立します。法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成などの方式は必要ありません(民法522条)。つまり、「この見積りでお願いします」というメールに「承知しました」と返した時点で、契約は成立し得ます。
問題は、そのとき何が契約の内容になったのかです。見積書に制作範囲や修正の回数が書かれていなければ、それらは決まっていないことになります。見積書は、金額を伝えるだけの書類ではなく、契約の内容を示す書類として作ります。
| 制作範囲 | トップページ1、下層ページ5(会社概要・サービス・料金・よくある質問・お問い合わせ)。スマートフォン対応 |
|---|---|
| 含まれる作業 | デザイン、コーディング、お問い合わせフォームの設置、公開作業 |
| 含まれない作業 | 原稿の作成、写真の撮影、ロゴの制作、サーバー・ドメインの費用、公開後の更新 |
| 修正 | デザインの修正は2回まで。3回目以降は1回◯◯円 |
| 前提条件 | 原稿と写真は◯月◯日までにご提供いただくこと。遅れた場合は納期を調整します |
| 納期 | 原稿と写真の受領から◯週間程度 |
| 金額・支払 | ◯◯円(消費税別)。着手時に半額、公開時に残額 |
| 有効期限 | 見積日から30日 |
「含まれない作業」と「前提条件」を書いておくと、後から追加の作業を求められたときに、追加の費用をお願いする根拠になります。
見積書を出すことが「申込み」なのか、申込みを誘うだけなのかを決めておかないと、契約がいつ成立したかが争いになります。成立した日が分からないと、「契約日から◯日以内に支払う」という条項の支払期日も決まりません。事務所が扱った書類では、成立の時点を次のように定めていました。
- 見積書を、発注者が記録の残る方法(署名・電子契約・メールでの承認)で承認した時点
- 申込みを承諾し、かつ着手金の入金を確認した時点
- 継続取引の基本契約で、個別の発注を受注者が承諾した時点(受けるかどうかの自由を確保する)
- 書面・メール・電子契約のいずれかで同意した時点(電子契約のサービス名は固定しない)
見積書に書いておく前提条件
見積りの金額は、一定の前提の上に成り立っています。その前提が崩れたときに金額や納期を見直せるよう、見積書か契約書に前提条件を書いておきます。
- 原稿・写真・ロゴなどの素材を、発注者がいつまでに提供するか
- 確認・承認の返事を、どのくらいの期間で返してもらうか
- 使用するサーバーやシステムの環境(指定がある場合)
- 参考サイトや要望の範囲(参考サイトと同じ機能をすべて作るわけではないこと)
- 範囲外の作業を依頼された場合の単価や計算の方法
仕様書とワイヤーフレームを、契約の一部にする
見積書だけでは書ききれない細かな内容は、仕様書やワイヤーフレーム(画面の構成図)で決めます。これらを契約書の「別紙」として位置づけ、確定の手順を決めておくと、後から「こういう機能が入っていると思っていた」と言われたときに、確定した内容を示すことができます。
仕様の確定と変更の流れ
ヒアリング
目的・対象・必要なページと機能を聞き取る
ワイヤーフレーム
画面の構成を示し、発注者の確認を受ける
仕様の確定
確定した版をメール等で記録する(確定日と版)
デザイン
確定した仕様に沿ってデザインを作る
変更の申出
確定後の変更は、追加の費用と納期を見積もってから着手
変更の合意
変更の内容・費用・納期をメール等で確認する
(仕様の確定及び変更)
1発注者及び受注者は、受注者が作成したワイヤーフレーム及び仕様書の内容を確認し、合意した時点で仕様を確定します。確定した仕様書は、本契約の一部を構成します。
2仕様の確定後に発注者が仕様の変更を求める場合、受注者は、変更に要する費用及び納期への影響を発注者に示し、発注者がこれを承諾した後に変更の作業に着手します。
3前項の承諾がない限り、受注者は、確定した仕様に基づいて業務を行えば足ります。
「修正」(確定した仕様の範囲内での手直し)と「仕様の変更」(範囲そのものの変更)を区別しておくと、修正の回数の数え方で争いになりにくくなります。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| サイトの目的と対象 | 誰に何を伝えるサイトか、主な閲覧の環境 |
| ページの構成 | ページの一覧と、各ページの主な内容 |
| 機能 | お問い合わせフォーム、ブログ、予約など、設置する機能と外部サービス |
| 素材の担当 | 原稿・写真・ロゴを誰が用意するか、提供の期限 |
| 対応環境 | 対応するブラウザ・OS・画面幅 |
| 納品の形 | 本番環境への設置まで含むか、データの引渡しか |
| 公開後 | 公開後の無償の対応の期間と、保守の契約の有無 |
工程の確定点ごとに、後戻りの費用を決める
Webサイトの制作は、サイトの構成→ワイヤーフレーム→デザイン→コーディングと進みます。事務所が扱った制作の請負契約書では、成果物の範囲に「サイト構成にもとづくワイヤーフレームの作成」「ワイヤーフレームにもとづくデザインの作成」を工程として並べ、コーディングの修正は確定したデザインに準拠すること、デザインの確定後の仕様の変更による修正は有償とすることを定めていました。工程の確定点ごとに後戻りの費用を決めておくことが、修正のトラブルの一番の予防になります。
同じ場面に「受注者は追加料金を請求できる」と「双方の合意のうえ対応する」の二つのルールが置かれていた契約書もありました。どちらが適用されるのかで争いになるので、仕様の変更は一つの手順にまとめます。仕様が抽象的なまま進めた契約は、制作者に有利にも不利にも転びます。仕様書を別紙にして契約に組み込む意味は、ここにあります。
発注が決まる前の作業と、その費用
「まずデザイン案を見てから決めたい」と言われて、提案用のデザインを作ることがあります。発注に至らなかった場合、その作業の費用を請求できるかどうかは、事前に何を約束したかで決まります。何も決めていなければ、無償の提案と受け取られやすく、請求は難しくなります。
- 着手の前に、提案のための作業が無償か有償かを、メールなどで明確にしておきます。
- 有償にするなら、少額の「デザイン提案」の契約を先に切り出し、発注に進んだら本契約の代金に充当する形にすると、受け入れてもらいやすくなります。
- 発注に至らなかった場合に、提案したデザイン案を発注者が使ってよいのか(他の制作者に渡して作らせてよいのか)を決めておきます。
ご相談の場面から:発注前のデザイン案
提案のために作ったデザイン案を、発注しなかった相手が別の制作会社に渡して作らせていたようです。何か言えますか。
デザイン案に著作物性があれば、無断で複製や改変をすることは著作権の問題になり得ます。ただ、提案の段階でどこまで使ってよいと伝えていたかによって結論が変わります。今後は、提案の前に「発注に至らなかった場合、提案物を利用しないこと」をメールで確認しておくと、争いを防げます。
契約の前に提示したラフについて、規約で「使用・公開・AIへの入力を禁止する」と書いても、規約は契約が成立した後の内容なので、まだ同意していない相手には及びません。見積りの段階で見せるラフは最小限にする、透かしを入れる、提示の条件をメールで承諾してもらう、といった運用で補います。
業務の範囲を広げたら、契約書の前文と定義を見直す
制作会社がフリーランスに発注する基本契約で、Webサイトのほかにチラシや看板のデザインも頼みたい、という相談を受けたことがあります。業務の列挙の中に「バナー、ロゴその他のデザイン」という項目はありましたが、前文が「Webサイトの制作、デザイン、コーディングその他の業務」となっていたため、「その他」は前に挙げたものと同じ種類に限って読まれやすく、契約全体がWebサイトの業務に限られると主張される余地がありました。そこで、前文と業務の条の2か所を明確にしました。取引の範囲を広げたときは、定義と前文を見直します。
印刷物のデザインでは、デザインに入る前に文言を確定し、デザインの工程に移った後の文言の変更は追加の費用とスケジュールの変更を伴う、と定めておく型があります。印刷を代行する場合は、印刷の工程での誤植や色の違いの扱いを、印刷会社の規約に従うのか、制作者が負うのかを分けておきます。
見積りの有効期限と、出し直し
見積書には有効期限を書いておきます。有効期限がないと、何か月も経ってから「あのときの見積りでお願いします」と言われ、その間に変わった作業の量や外部サービスの料金を反映できなくなります。事務所が扱った契約書では、見積書に有効期限の記載がない場合は一定の期間とすること、期限の経過後は条件を変えて出し直せることを、契約書の側に定めていました。
制作の途中で作業が増える場合は、追加の見積書や変更の見積書を出し、発注者の承認を得てから作業に入ります。承認を得ないまま作業を進めると、追加の費用を後から求めても「頼んでいない」と言われがちです。承認はメールの返信でもかまいませんが、日付が残る形で受け取ります。
発注書と請書で、引き受けた条件を残す
継続して取引する相手とは、共通の条件を基本契約書にまとめ、案件ごとに発注書を受け取る形にすると手間が減ります。発注書を受け取ったら、請書(注文請書)を返すか、メールで承諾を返信して、どの条件で引き受けたのかを残します。発注者が従業員を使用しない個人などのフリーランスに発注する場合は、発注者に取引条件の明示の義務があります(外注・フリーランス法のページ)。
確認リスト:発注書を受け取ったら
- 1業務の内容が、ページ数・作業の範囲まで特定されているか(「一式」や空欄になっていないか)
- 2成果物と納期、納品の方法が書かれているか
- 3報酬の額が、基準の額・調整の額・支払う額に分けて書かれているか(減額でないことが分かるか)
- 4支払期日が、受領した日から60日以内になっているか(発注者がフリーランス法の特定業務委託事業者や取適法の委託事業者に当たる場合)
- 5検査・完成の基準と、無償の修正の回数が書かれているか
- 6著作権を譲渡するのか、許諾するのか、その範囲が書かれているか
- 7空欄の項目は、記入してもらってから着手する
事務所の改訂例:見積書・発注書(依頼者原案からの改訂)
制作範囲
「一式」では範囲が特定できません。ページ数と作業の内容を書き、詳細は仕様書に委ねました。
確認の期限
確認の返事が来ないまま止まる案件への備えです。進める前に、その旨を改めて通知する手順を入れることもあります。
契約書全体の条項はホームページ制作の契約書のページ、修正やキャンセルの扱いはトラブル・キャンセルのページで扱っています。
よくあるご質問
契約書を交わしていなくても、契約は成立していますか?
契約は、申込みに対して承諾をしたときに成立し、書面は必ずしも必要ありません(民法522条)。メールやチャットで依頼と承諾をしていれば、契約が成立している可能性があります。そのため、見積書や確認のメールに、制作範囲や修正の回数などの条件を書いておくことが大切です。
見積書には、金額のほかに何を書けばよいですか?
制作範囲、含まれる作業と含まれない作業、修正の回数、前提条件(素材の提供時期など)、納期、支払の時期と方法、有効期限を書いておくと、契約の内容を示す書類として機能します。
仕様書とワイヤーフレームは、契約書に付けるべきですか?
契約書の別紙として位置づけ、確定の手順を決めておくのがおすすめです。確定した版を記録しておけば、後から機能の追加を求められたときに、仕様の変更として追加の費用をお願いする根拠になります。
提案用のデザイン案の費用を請求できますか?
事前に有償と約束していれば請求できますが、何も決めていなければ、無償の提案と受け取られやすく、請求は難しくなります。着手の前に、有償か無償か、発注に至らなかった場合に提案物を使ってよいかを、メールなどで確認しておきます。
修正と仕様変更は、どう区別すればよいですか?
確定した仕様の範囲内での手直しを「修正」、制作範囲や機能そのものを変えることを「仕様の変更」として契約書で区別しておきます。修正は回数の上限まで料金に含め、仕様の変更は追加の費用と納期を見積もってから着手する形にします。
見積書の有効期限は、書いておくべきですか?
書いておくべきです。期限がないと、何か月も後に当時の金額での依頼を受けることになりかねません。期限の記載がない場合の扱いと、期限後は条件を変えて出し直せることを、契約書の側にも定めておきます。
チャットでの「了解です」も、契約の変更になりますか?
チャットでのやり取りも合意の証拠になり得ます。契約の変更や解除は記録が残る方法に限り、細かな仕様の確認はチャットでもよい、と契約書で分けておくと、何気ない一言が契約の変更として扱われるのを防げます。
ワイヤーフレームの確認は、なぜ必要なのですか?
画面の構成を確定させておくと、デザインやコーディングに進んだ後で構成を変えたいと言われたときに、仕様の変更として追加の費用をお願いする根拠になります。確定した日と版を、メールなどで記録しておきます。
契約前に見せたラフを、他の制作会社に使われないか心配です。
規約は相手が同意して初めて効力を持つので、発注に至らなかった相手には及びません。ラフに著作物性があれば著作権の問題にはなり得ますが、立証は簡単ではないので、見せるラフを最小限にする、透かしを入れる、提示の条件をメールで承諾してもらう、といった運用で補います。
発注書の業務内容の欄が空欄のまま届きました。
業務の内容は契約の中心です。空欄のまま着手すると、何を引き受けたのかが分からなくなります。記入してもらうか、こちらから内容をメールで示して承認を得てから着手します。
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