このページの要点
- 外部の作曲家が作った曲は、契約がなければ作曲家のまま。譲渡なら27条・28条の権利を特掲し、人格権の不行使を定める。
- 歌やナレーションには実演家の権利が別にある。「著作権を譲渡する」だけでは足りず、用途・媒体・期間ごとの許諾を決める。
- 管理団体に預けた曲は個別の許諾や譲渡に制約がかかり得る。管理委託の有無を表明させ、使用料の帰属を決める。
- 修正の範囲、納品物の中身、追加利用の料金、終了後の配信と停止を、数字で書いておく。
作曲や録音を頼むと、権利はいくつに分かれるのですか
音楽の著作物は、著作権法が著作物の例として挙げているものの一つです(著作権法10条1項2号)。作曲をした人が著作者で(同法2条1項2号)、権利は曲を創作した時に生じ、登録などの手続は要りません(同法17条2項)。音楽の制作が複雑になるのは、完成した一つの音源の中に、持ち主の違う権利が何層にも重なるからです。
| 層 | 権利を持つ人 | 主な権利 | 契約書で決めること |
|---|---|---|---|
| 作曲(旋律・和声・リズムの組合せ) | 作曲者(著作者) | 複製、演奏、公衆送信などの著作権(著作権法21〜23条)と、著作者人格権 | 譲渡するか、利用を許諾するか。用途・期間・加工の範囲 |
| 作詞(歌詞があるとき) | 作詞者(言語の著作物の著作者) | 同上 | 作曲と同じ契約に含めるか、別にするか。作詞者が別人のときの手当て |
| 編曲(原曲を変える) | 編曲者。原曲の作曲者も権利を持つ | 編曲は翻案にあたり(同法27条)、原曲の作曲者は二次的著作物の利用について同じ種類の権利を持つ(同法28条) | 既存の曲を編曲するときは、原曲の権利者の許諾が先に要る |
| 実演(演奏、歌唱、語り) | 実演家(歌手、演奏家、ナレーターなど。実演を指揮・演出する者を含む) | 録音権・録画権(同法91条)、送信可能化権(同法92条の2)、譲渡権(同法95条の2)、氏名表示権・同一性保持権(同法90条の2・90条の3) | 誰が実演するか。実演家の権利を、どの範囲で許諾してもらうか |
| 録音物(音を最初に固定したもの) | レコード製作者(同法2条1項6号) | 複製権(同法96条)、送信可能化権(同法96条の2) | 音源(原盤)を誰が作り、誰が持つか。費用を出した者との関係 |
外部の作曲家が作った曲は、会社のものにはならない
会社が従業員に曲を作らせた場合は、会社の発意で、職務上作成し、会社の名義で公表するなどの条件がそろえば、会社が著作者になります(同法15条1項)。しかし、外部の作曲家に頼んだ曲は、多くの場合この条件に当たらず、作曲家が著作者のままです。「頼んで、お金を払ったのだから、会社のものだ」という理解は、契約で権利の移転か利用の許諾を決めていなければ、成り立ちません。
二人で作ったときは、共有になる
作曲者と作詞者、あるいは二人の作曲者が共同で作り、各人の寄与を分けて利用できないときは、共同著作物になります(同法2条1項12号)。共有になった著作権を使うには、共有者全員の合意が要ります(同法65条2項)。共作の曲を納品する契約では、「窓口になる一人を決める」「許諾や譲渡をする権限をその一人に委ねる」と書いておかないと、曲が使えなくなります。
(楽曲と音源の定義と権利の区分)の書き方の例
1本契約において「本楽曲」とは、受注者が本契約に基づき作曲して納品する楽曲(旋律、和声、リズムその他の音楽的要素の組合せをいい、歌詞を伴う場合は、その歌詞を含む。)をいい、「本音源」とは、本楽曲の演奏又は歌唱を最初に録音した音源データをいう。
2本楽曲に係る著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む。)は、発注者が第○条の報酬の全額を支払った時に、受注者から発注者に移転する。
3受注者は、本楽曲及び本音源について、著作者人格権及び実演家人格権を行使しない。ただし、発注者が受注者の名誉又は声望を害する態様で改変した場合は、この限りでない。
4本音源に含まれる実演に係る権利及びレコード製作者の権利の帰属と、発注者の利用の範囲は、別表のとおりとする。
5受注者が本契約の締結前に作成した旋律、サウンドロゴ、サンプル音源その他の素材(以下「既存素材」という。)の権利は受注者に留保し、受注者は、発注者に対し、本楽曲の利用に必要な範囲で既存素材の利用を許諾する。
第2項は、報酬の全額の支払いを移転の条件にしています。
著作権は譲渡するのですか、利用を許諾するのですか
結論から言うと、どちらにするかは、発注者が曲を「どう使い続けたいか」と、作曲家が曲を「どう使い続けたいか」で決まります。どちらでも契約書は書けますが、一つの契約書の中で、譲渡の条項と許諾の条項が混ざっていると、解釈が割れます。
譲渡型と許諾型の比べ方(一般的な整理)
| できること | 著作権の譲渡 | 独占的な許諾 | 非独占的な許諾 |
|---|---|---|---|
| 発注者が納品後に自由に編曲・改変できる | ○(人格権の不行使を定めた場合) | △(許諾された加工の範囲で) | △(許諾された加工の範囲で) |
| 作曲家が同じ曲を他の依頼者に提供できる | × | × | ○ |
| 作曲家が自分のライブや配信で演奏できる | △(留保を定めた場合) | △(留保を定めた場合) | ○ |
| 発注者が曲を第三者に使わせる(再許諾) | ○ | △(定めがあれば) | △(定めがあれば) |
| 費用が高くなりやすい | ○ | △ | × |
○=できる、△=契約の定め次第、×=できない。表は一般的な整理で、実際は条項の書き方で変わります。
譲渡するときに書くこと
著作権は、全部又は一部を譲渡できます(同法61条1項)。ただし、翻案権(27条)と二次的著作物の利用に関する権利(28条)は、譲渡の目的として特に掲げていないと、譲渡した者に残っていると推定されます(同法61条2項)。編曲や、ゲーム・映像向けの再構成を予定している曲では、この二つの権利を契約書に書き込まないと、発注者が自由に編曲できなくなる場合があります。
また、著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)は、譲渡できません(同法59条)。BGMとして使うために、曲を途中で切る、繰り返す、他の音と重ねる、音量を変えるといった加工が通常あるなら、「著作者人格権を行使しない」と書いておくのが一般的です。同一性保持権は「意に反する」改変から著作者を守る権利で(同法20条1項)、やむを得ない改変にはその例外があります(同法20条2項4号)が、どこまでがやむを得ないのかは個別の事情で決まります。加工する範囲を契約書に例示しておくほうが、争いを避けられます。
譲渡の対価を、納品の時に払うのか、全額を払い終えた時に移るのかも、書いておく項目です。さらに、譲渡を受ける側は、その曲が過去に別の人へ譲渡されていないかを気にします。著作権の移転は、登録しなければ第三者に対抗できないためです(同法77条1号)。実務では、作曲家が「第三者に譲渡や独占的な許諾をしていないこと」を表明して保証する条項が置かれます。
許諾にするときに書くこと
著作権者は、他人に利用を許諾でき、許諾を受けた人は、その利用方法と条件の範囲内でしか利用できません(同法63条1項・2項)。許諾を受けた人の利用権は、著作権者の承諾がなければ譲渡できません(同法63条3項)。そのため、許諾型の契約では、用途、媒体、地域、期間、独占か非独占か、加工の範囲、再許諾(制作会社や配信代行会社に使わせること)の可否、会社の合併や事業譲渡のときの扱いを書きます。
譲渡と許諾の違いを、画像やデザインの契約でも整理したページがあります。考え方は共通しているので、著作権の譲渡契約書と著作者人格権の不行使も参考になります。
歌やナレーションが入ると、何が加わるのですか
歌、演奏、語りをした人は、実演家です。「実演」とは、著作物を演奏し、歌い、朗詠し、その他の方法で演ずることをいい、芸能的な性質を持つ行為も含まれます(同法2条1項3号)。実演家には、歌手、演奏家、俳優のほか、実演を指揮したり演出したりする者も入ります(同条4号)。台本を読み上げるナレーションも、実演として扱われることが多いと考えられます。
実演家が持つ権利は、著作権とは別の権利です。実演家人格権(氏名表示権と、名誉又は声望を害する改変を受けない同一性保持権)と、財産的な権利(録音権・録画権、送信可能化権、譲渡権など)があります(同法89条1項、90条の2、90条の3、91条、92条の2、95条の2)。ここで大切なのは、契約書に「著作権を譲渡する」と書いても、実演家の権利が当然に移るとは限らないことです。「著作権(第27条及び第28条の権利を含む。)及び実演家の権利」のように、権利の名前を書き分けて、移すのか、許諾するのかを決めます。
歌い手やナレーターを手配するのは誰か
作曲家が歌い手やナレーターを手配して、完成品として納品するのか、発注者が出演者と直接契約するのか。これを決めていないと、出演者の権利の処理は誰の責任かが、後で問題になります。実務で多いのは、手配した側が、出演者から、納品時点の用途・媒体・地域・期間に必要な許諾を取る、という書き方です。さらに、発注者が当初の予定を超えて使うときに、出演者への追加の許諾が要るかどうかを確認し、手続をする責任を、誰が負うのかも書いておきます。
(実演の取扱い)の書き方の例
1受注者が、自ら歌唱、演奏又はナレーションを行う場合を除き、実演を行う者(以下「出演者」という。)を手配するときは、受注者は、出演者から、本契約に定める発注者の利用に必要な範囲の許諾を、書面により取得する。
2前項の許諾の範囲は、用途(○○)、媒体(○○)、地域(○○)及び期間(○○)とする。この範囲を超えて利用する必要が生じたときは、発注者は、あらかじめ受注者に通知し、受注者は、出演者への許諾の要否と追加の出演料の額を、見積書により発注者に示す。
3発注者は、前項の見積書の額を承諾した後に、当該利用を行う。承諾前に当該利用を行った場合の責任は、発注者が負う。
4出演者の音声その他の実演を、機械学習の学習データとして利用すること、及び音声合成その他の技術により出演者の声に似せた音声を作ることは、本契約に基づく許諾の範囲に含まれない。
第4項は、声を学習や合成に使う場合を別に扱うための一文です。第4項を置かない場合、学習や合成に使えるかどうかが争いになり得ます。
AI音声や、声の学習データの扱いは、制作での生成AIの使用と契約で整理しています。
管理団体に預けている曲、預ける曲は、契約書でどう扱うのですか
日本音楽著作権協会(JASRAC)のように、作詞者、作曲者、音楽出版社などから著作権の管理を任され、利用者から使用料を受け取り、権利者に分配する団体があります。著作権法は、こうした事業者を「著作権等管理事業者」と呼んでいます(同法2条1項23号。根拠は著作権等管理事業法です)。JASRACの利用者向けの案内では、楽曲の管理状況は作品検索データベース(J-WID)で確認すること、JASRACが管理していない楽曲は別の権利者から許諾を得る必要があること、使用料は作詞家、作曲家、音楽出版社などに分配されることが説明されています。
制作契約で管理団体が関わってくるのは、次の二つの場面です。
- 作曲家が、すでに管理団体や音楽出版社に曲の管理を任せているとき。依頼で納品する曲が、この管理の対象になっているかどうかで、発注者に譲渡や許諾ができるかが変わる場合がある。
管理を任せる契約の中身によっては、個別の許諾や譲渡に制約がかかることがあります。その中身は、団体や権利者との契約によって違うため、一般論では言い切れません。契約書では、「作曲家がどのような管理の契約をしているか」を、発注者が事前に確認できる仕組みにしておきます。
(管理事業者への管理委託)の書き方の例
1受注者は、本契約の締結時において、本楽曲を著作権等管理事業者その他の第三者に管理委託していないこと、及び第三者に対し本楽曲の利用の許諾又は権利の譲渡をしていないことを、表明し保証する。
2発注者が本楽曲を著作権等管理事業者に管理委託するか否か、作品の届出をする場合の名義、及び管理事業者から分配される使用料の帰属は、別紙のとおりとする。
3受注者が、既に管理事業者に管理を委託している楽曲を納品しようとするときは、事前に書面でその旨を発注者に通知し、当該管理委託の内容が本契約に基づく発注者の利用を妨げないことを確認する。確認ができないときは、発注者は、代替の楽曲の納品を求め、又は本契約を解除することができる。
第2項の分配の帰属は、譲渡の対価に含めて受注者の取り分をゼロにするのか、使用料の一部を受注者に残すのかで、報酬の金額も変わります。
管理型の楽曲許諾契約でよく見られる条項と、気をつける点
楽曲を管理する会社が、動画の配信者などに、曲の使用を非独占で許諾し、動画の収益から使用料に当たる額を配信者に分配する形の契約があります。この型の契約では、次のような条項が見られます。
- 曲の短縮や、音の高さ・リズムの多少の変更は認めるが、曲の本質を損なう改変には事前の同意を求める(同一性保持権への配慮)。
- 分配は、投稿した月に生じた収益を、一定の月の末日までに、一定の割合で支払う。支払額が一定の額に満たないときは、次の支払期に繰り越す。
- 契約が終わっても、すでに使った動画での利用は続けられるが、その後に生じた収益は分配しない。
- 管理会社と作曲家などの権利者との間で曲の使用に問題が生じたときは、配信者は、以後その曲を使えない。
この型で整合性を確かめたいのは、「非独占的な許諾」と書いておきながら、配信者に同種の取引を禁じる条項(排他性)を置いている例です。許諾は他の人にもされる前提なのに、受ける側だけが他社との同種の取引を制限されると、許諾の性質と合いません。排他性の条項を置くなら、対象とする曲や期間を限定し、対価との釣り合いを確認する必要があります。
| 月 | その月に発生した収益 | 分配率80%の額 | 繰越を含む累計 | 支払い |
|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 6,000円 | 4,800円 | 4,800円 | 10,000円に満たないため繰り越す |
| 2か月目 | 7,500円 | 6,000円 | 10,800円 | 10,800円を支払う(振込手数料の負担者は契約で決める) |
| 3か月目 | 3,000円 | 2,400円 | 2,400円 | 10,000円に満たないため繰り越す |
納品、修正、報酬は、どう書けばよいのですか
制作契約の中で、最も争いになりやすいのは、「イメージと違う」という場面です。音楽は、完成したかどうかの基準が、図面や文書よりもあいまいです。結論として、争いを減らすには、①請負か準委任かを分ける、②段階を踏む、③修正の範囲を決める、④納品物の中身を列挙する、の四つを契約書に書きます。
音楽の制作で混ざる三つの仕事
楽曲の制作・納品
請負(民法632条)に近い型
- 完成した音源を納品することを約束し、発注者が報酬を払う
- 完成の基準(尺、BPM、編成、納品形式)を仕様に書く
- 納品後の不適合には、追完や報酬の減額などの責任が生じる(同法637条)
演奏・歌唱・ナレーションの出演
準委任(同法656条・643条)または出演契約に近い型
- 収録に参加し、実演を行うこと自体が仕事
- 台本や譜面の提供者、収録環境、収録日を決める
- 実演家の権利の許諾の範囲を決める
立会い、アレンジの相談、監修
準委任に近い型
- 作業の成果の完成ではなく、作業を行うことが約束
- 作業時間の上限、報酬の算定、中途の終了の扱いを決める
- いつでも解除できる(同法651条)が、不利な時期の解除の賠償を定めておく
一つの案件に三つが混ざるときは、仕事ごとに、報酬・納期・責任の定めを分けて書くと、争いの入口が減ります。
段階を踏む:方向性の確認、デモ、本制作
楽曲の依頼では、依頼文の言葉(「明るく、少し切ない」)だけでは、仕上がりのイメージが合いません。実務では、参考にする曲、尺、テンポ(BPM)、編成、使う場面を発注者が示し、短いデモ(構成案)を出して確認してから、本制作に入ります。方向性の変更は、修正の範囲に含めず、別に見積もる、と書いておきます。
修正の線引きと、納品物の中身
修正は、「軽微な修正」と「再制作」に分けて書きます。たとえば、音量のバランス、イントロの長さ、フェードの位置、テンポの微調整は軽微な修正として回数の範囲で無償にし、旋律の作り直し、編成の変更、台本の変更に伴う再収録は、再制作として別の報酬にします。ナレーションでは、読み間違いやアクセントの調整は無償の修正とし、台本の文言を変えたことによる録り直しは、文字数や秒数に応じた追加報酬とする、という定め方が使われています。修正の依頼の期限(納品から何日以内か)も、決めておきます。
納品物に何が含まれるかも、列挙します。完成した音源データ(形式、サンプリングレート、ビット深度)、短縮版、ループ素材、楽器ごとのパート音源、制作ソフトのデータ、譜面、歌詞のデータなどです。このうち、パート音源や制作ソフトのデータは、受注者の制作手法がそのまま出るため、原則として納品に含めず、渡すなら追加料金と利用の条件を決めておく、という整理が一つの考え方です。
報酬と、途中でやめたとき、採用されなかったとき
報酬は、一曲いくら、1秒いくら、1時間いくらなどの定め方があります。分割する場合は、着手時、デモの承認時、納品時のように、仕事の段階に合わせます。請負で、仕事が完成する前に契約が終わった場合でも、すでにした仕事の結果が可分で、発注者に利益があるときは、その割合に応じた報酬を請求できます(同法634条)。また、注文者は、仕事が完成しない間は、損害を賠償していつでも解除できます(同法641条)。
複数の作曲家にデモを出させて、採用された人だけに報酬を払う方式(コンペ)では、不採用になったデモの扱いを決めておく必要があります。不採用のデモの権利は作曲家に残るので、発注者が採用せずに雰囲気だけ借りたと疑われないよう、不採用案を使わない旨と、デモ制作費の有無を書きます。
個人の作曲家やナレーターに頼むときは、フリーランス法にも注意
従業員を使わない個人や、代表者一人だけの法人に、音声その他の音響で構成されるものの作成を委託する場合は、フリーランス法の「業務委託」に当たります(フリーランス法2条3項1号・4項2号)。発注する事業者は、給付の内容、報酬の額、支払期日などを、書面又は電磁的方法で直ちに明示しなければなりません(同法3条)。従業員を使う事業者などの特定業務委託事業者は、受領した日から60日以内に報酬の支払期日を定める必要があり(同法4条1項)、1か月以上の業務委託では、責めに帰すべき事由のない報酬の減額や、不当なやり直しなどをしてはなりません(同法5条1項2号、2項2号)。
音楽の制作では、「満足するまで無償で修正する」「権利を無償で追加して渡す」といった条項が入りやすく、これが不当なやり直しや、経済上の利益の提供にならないかが論点になります(同法5条2項)。修正の回数と範囲を決め、超えた分は報酬を払う、と書いておくことが、発注側にも受注側にも役立ちます。資本金などの条件によっては、中小受託取引適正化法(取適法)の対象にもなり得ます。外注全般の考え方は外注・再委託の契約書とフリーランス法にまとめています。
見積書や発注書に書く項目は、制作の見積書・発注書と仕様書で、修正の依頼やキャンセルをめぐる争いの予防は、制作のトラブルとキャンセルで説明しています。
追加で使うとき、契約が終わったあとは、どうなるのですか
結論として、追加の利用と契約の終了後の扱いは、納品の時点で決めておきます。後から決めようとすると、すでに曲が世に出ており、立場の強い方に有利な条件になりがちです。
利用の範囲は、五つの軸で書く
- 用途:動画のBGM、広告、ゲーム、店舗の店内、イベント、着信音、配信番組の主題など。
- 媒体:自社サイト、動画共有サイト、テレビ、ラジオ、アプリ、会場など。
- 地域:国内のみか、世界か。
- 期間:一定の年数か、無期限か。
- 加工と再許諾:短縮、ループ、他の音との合成、制作会社や広告代理店への提供の可否。
たとえば、社内向けの説明動画のために作った曲やナレーションを、後から自社サイトの広告動画にも使う、という場面があります。用途に「社内上映」としか書いていなければ、広告への利用は範囲の外です。追加の用途ごとの料金は、あらかじめ決めておきます。
| 用途 | 基本料に対する追加分 | 金額の例 | 出演者への追加許諾 |
|---|---|---|---|
| 当初の用途(社内上映) | 基本料 | 50,000円 | 当初の許諾に含む |
| 自社サイトでの公開 | 基本料の50% | 25,000円 | 要確認。必要なら出演料を別に加算 |
| 動画広告(インターネット) | 基本料の100% | 50,000円 | 要確認。必要なら出演料を別に加算 |
| テレビでの放送 | 別途見積り | 個別に決める | 要確認 |
契約が終わったとき、何が残るのか
契約書には、終了後も続く条項(残存条項)を書いておきます。音楽の契約で書いておきたいのは、次の点です。
- 終了までに公開した動画やゲームで、曲を使い続けてよいか。新規の作品に使えるか。
- 管理会社や共同制作者との間に問題が生じて、曲が使えなくなったときの扱い。代替曲の提供、報酬の返還の有無。
- 音源を共同で作り、費用を分担した場合に、解除後も配信を続ける期間、停止の条件、音源を買い取るときの金額の算定方法。
- サンプリング、カバー、リミックス、別アレンジなど、新たな二次的著作物を作るときは、別の契約で扱う旨。
- 未公開の曲、台本、企画の秘密保持。
実務では、音源の共同制作や、レーベル型の契約で、解除しても一定期間は配信が止められず、買取の金額も高額になる構造が見られます。解除すれば自分の曲を取り戻せると考えていた側が、契約の終了後の制限を知らないまま署名しがちです。「解除」と「配信の停止」と「権利の返還」は別の事柄なので、それぞれ、いつ、どんな条件で生じるのかを、条文に書き分けます。
キャラクターのテーマ曲やボイスを作る契約では、キャラクターそのものの権利と、曲やボイスの権利を分けて書くことが大切です。キャラクター・グッズのライセンス契約書と、Live2Dモデル・VTuberイラストの依頼規約でも、権利の層を分ける考え方を扱っています。
よくある失敗と、直し方
ここでは、音楽・音声の制作契約で、よく見られる書き方の問題を、直した例と並べて示します。条文は説明のために新しく書いたもので、実際の契約では、取引の内容に合わせて調整します。
書き方の例(一般的な例) 音楽・音声の制作契約
権利の移し方
27条・28条を書かないと残る推定がある。人格権は譲渡できない。実演とレコードの権利は、著作権とは別に扱う。
追加利用の費用
協議では金額も許諾の可否も決まらない。用途ごとの料金を先に決める。
権利侵害の責任
発注者が持ち込んだものまで受注者が背負う構造は、負担が不均衡。参考曲に寄せる依頼ではとくに重要。
契約が終わったあとの配信
停止も買取もできない構造だと、「解除したのに取り戻せない」状態になる。期間と条件を数字で書く。
ヒヤリングで確認することと、起きがちなこと
ヒヤリングで確認すること
制作を依頼する前、または受ける前に確認する項目
問曲は新しく作るのか、既存の曲を編曲するのか。歌詞は誰が書くのか。
理由編曲は原曲の権利者の許諾が先に要る。作詞が別人なら、その人の権利の扱いも契約に入れる必要がある。
問実演(歌、演奏、ナレーション)は誰がするのか。誰が手配するのか。
理由実演家の権利は著作権と別。出演者との許諾を取る責任を誰が負うかで、契約書の書き方が変わる。
問曲を管理団体や音楽出版社に預けているか、預ける予定はあるか。
理由管理を任せている曲は、個別に譲渡や許諾ができない場合がある。分配金の帰属も報酬に関わる。
問使う場面は何か。いつ、どこで、どれだけの期間使うのか。将来、広告やゲームなどに広げる可能性はあるか。
理由用途・媒体・地域・期間が範囲を決める。後から広げたい場合は、追加料金の設計が要る。
問曲を譲渡してほしいのか、許諾でよいのか。制作者は同じ曲を他でも使いたいか。
理由譲渡と許諾で、できることが大きく違う。作曲家の実績公開やライブでの演奏の留保も、ここで決まる。
問修正は何回まで、どの範囲まで、いつまで受けるか。
理由上限のない修正は、報酬と釣り合わない。範囲を軽微なものに限り、方向性の変更は別料金にする。
問受注者は個人か。従業員を使っているか。
理由個人や代表者一人の法人への委託は、フリーランス法の対象になる。書面の明示と支払期日の定めが要る。
起きがちなこと
音楽・音声の制作契約で、実際に起きやすいことを、まとめます。
- 「著作権は発注者に帰属する」とだけ書いたところ、歌い手の権利や録音物の権利は決まっておらず、動画以外に使おうとして許諾が取れなかった。
- 作曲家が管理団体に曲を預けていることを知らないまま全権を譲渡する契約を結び、後から分配金の帰属で食い違った。
- ナレーションを社内動画用に録ったが、後から広告にも使おうとして、追加の許諾と追加費用の話になった。
- 「納得するまで修正」と書いたために、方向性の変更が何度も繰り返され、報酬の何倍もの手間がかかった。
- 解除すれば曲を取り戻せると考えていたが、契約には終了後も配信が続く定めがあり、買取の金額も高かった。
いずれも、条文の知識が足りなかったというより、権利の層ごとに「誰が、何を、どの範囲で」を書いていなかったことが原因です。この点を契約書の最初の章で整理しておくことが出発点です。
よくあるご質問
作曲を依頼すると、曲の著作権は自動的に発注者のものになりますか。
なりません。外部の作曲家が作った曲は、多くの場合、職務著作(著作権法15条)にならず、作曲家が著作者のままです。発注者が権利を得るには、契約で著作権を譲渡する(同法61条1項)か、利用を許諾する(同法63条1項)必要があります。譲渡するなら、27条と28条の権利を特掲しないと作曲家に残るものと推定される点(同法61条2項)にも注意します。
ナレーションの著作権を譲渡する条項があれば、ナレーターの実演家の権利も移りますか。
「著作権」と書いただけでは、実演家の権利(録音権・録画権、送信可能化権など)が含まれるとは限りません。実演家の権利は、著作権とは別に定められています(同法89条1項、91条、92条の2)。許諾や譲渡の対象に含めるなら、実演家の権利と、その用途・媒体・期間を明記します。
納品されたBGMを、動画だけでなく広告にも使えますか。
契約で許された用途・媒体・地域・期間の範囲でしか使えません(同法63条2項)。社内上映用とだけ定めていれば、広告は範囲の外です。出演者の実演が入っているときは、出演者の追加の許諾も要る場合があります。追加利用の料金の算定方法を、契約の段階で決めておくのが現実的です。
管理団体に登録している曲を、依頼で納品してもらうことはできますか。
管理団体が管理している曲は、管理の内容によって、個別の許諾や譲渡に制約がかかる場合があります。管理状況は、作品検索データベースなどの公表情報と、作曲家との契約の確認で調べます。契約書には、管理委託の有無の表明と、使用料の帰属を書いておきます。
無償の修正は、法律で何回までと決まっていますか。
回数を決めた法律はありません。契約で決めます。請負では、納品後の不適合には追完などの責任が生じますが(民法637条)、方向性の変更のような仕様の変更は不適合ではありません。無償の修正の回数、範囲、依頼の期限を決め、超える分は別の報酬とします。個人への発注では、責めに帰すべき事由のないやり直しをさせないことにも注意します(フリーランス法5条2項2号)。
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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引に必要な条項は、制作物の種類、納品の形、報酬の決め方、相手方が事業者か個人かによって異なります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 文化庁 著作権 / 公正取引委員会 / 特許庁